10個の展開公式と計算の工夫

最終更新日:

計算の基本となる展開公式を10個紹介した後に、5つの例題を解きながら計算の際の着眼点や工夫を紹介します。

目次

  1. 展開公式の一覧
  2. 計算する際の着眼点と工夫
  3. まとめ
Tips 画面の何も無いところをタップ(クリック)すると、便利な機能メニューが表示されます。

1. 展開公式の一覧

目次

展開の公式をまとめました。覚えておくと計算のときに便利です。数が多いため、いくつかに分けて紹介します。

展開公式No.1
  1. \((a+b)^2=a^2+2ab+b^2\)
  2. \((a-b)^2=a^2-2ab+b^2\)
  3. \((a+b)(a-b)=a^2-b^2\)
  4. \((ax+b)(cx+d)=acx^2+(ad+bc)x+bd\)

中学校で学んだ公式たちの復習です。4については\(x\)の係数が1のものを覚えたかもしれません。高校では係数が1以外も出てくるのでこの形でまとめて覚えておきましょう。

cf. 係数が1の場合

\[(x+a)(x+b)=x^2+(a+b)x+ab\]

展開公式No.2
  1. \((a+b)^3=a^3+3a^2 b+3ab^2+b^3\)
  2. \((a-b)^3=a^3-3a^2 b+3ab^2-b^3\)
  3. \((a+b)(a^2-ab+b^2 )=a^3+b^3\)
  4. \((a-b)(a^2+ab+b^2 )=a^3-b^3\)

2乗の次は3乗です。高校数学では3乗までよく出てきます。形が似ていて混乱しますが、5, 6は先程の1, 2の3乗バージョンです。4乗以上は無いの?という方は「二項定理(準備中)」をご覧ください。

一方、7, 8は展開すると3乗の和・差になる形です。これらは展開より因数分解のときによく使うイメージです。

展開公式No.3
  1. \((a+b+c)^2=a^2+b^2+c^2+2ab+2bc+2ca\)
  2. \((a+b+c)(a^2+b^2+c^2-ab-bc-ca)=a^3+b^3+c^3-3abc\)

9は1の括弧の中の項が一つ増えた形です。普通に展開すると項が9個出てきて、\(ab, bc, ca\)が2つずつあるのでそれをまとめた形になっています(この点が1と似ています)。10はとても長いですが、7, 8と同様に因数分解で使う方が多いです。この3つの公式について以下に覚え方を載せておくので興味のある人はご覧ください。

参考|7, 8, 10の覚え方
7, 8, 10の覚え方

2. 計算する際の着眼点と工夫

目次

公式をそのまま素直に使うだけなら良いのですが、実際はよく考えて計算しないと計算量が膨れてしまうことが多いです。計算量の増加はミスにもつながるので、次は例題を見ながら効率的に計算する方法を見ていきます。

例題1 効率的に展開する方法
目次

次の式を展開してください。

  1. \((x+1)(x+2)(x+3)(x+4)\)
  2. \((x+1)(x+2)(x+3)(x+6)\)
  3. \((x+y)^2(x^2+y^2)(x^2-xy+y^2)(x-y)\)
  4. \((x+y+z)^2-(y+z-x)^2+(z+x-y)^2+(x+y-z)^2\)
  5. \((x+y+z)(y+z-x)(z+x-y)(x+y-z)\)

※各解説・解答からこの例題に戻れます

どの問題も素直に前から計算していくと途中で挫折しそうです。そこで、展開の問題を解く時は次のことに注意しましょう。

展開を効率的に行うための考え方
  1. 共通部分はまとめて置き換える
  2. 計算する組み合わせを考える

まず1は計算に限らず、数学の問題を解くときに非常によく使います。置き換えることで式が見やすくなり、思考が整理されて考えやすくなるというメリットがあります。特に、展開の場合は置き換えにより公式の形が見えてくることが多いので恩恵が大きいです。慣れたら頭の中で置き換えて計算するようにしましょう。

次に、2については共通部分や公式の形が現れるような組み合わせを考えるのがコツです。それでは例題を解いていきます。

例題1の(1)の解説
例題1

「展開を効率的に行うための考え方」に従って進めます。「共通部分で置き換えられる」ところは無さそうです。なので「計算する組み合わせを考えて」、共通部分や公式の形が作り出せないか考えます。

\(1+4=2+3\)から\((x+1)\)と\((x+4)\)、\((x+2)\)と\((x+3)\)の組み合わせを考えると、それぞれを展開したときに\(x^2+5x\)という共通部分が作り出せます。

\begin{align}&(x+1)(x+2)(x+3)(x+4)\\[0.7em]={}&(x+1)(x+4)(x+2)(x+3)\\[0.7em]={}&(x^2+5x+4)(x^2+5x+6)\\[0.7em]={}&(x^2+5x)^2+10(x^2+5x)+24\\[0.7em]={}&x^4+10x^3+25x^2+10x^2+50x+24\\[0.7em]={}&x^4+10x^3+35x^2+50x+24\end{align}

例題1の(2)の解説
例題1

(1)と似ているので同様の方針で進められそうです。共通部分は無く、組み合わせを考えます。先程は足し算に注目しましたが、今回は和が等しくなる組み合わせはありません。そこで、展開時に定数項の積が出てくることから掛け算に注目してみます。すると、\(1×6=2×3\)が見えてきます。

\begin{align}&(x+1)(x+2)(x+3)(x+6)\\[0.7em]={}&(x+1)(x+6)(x+2)(x+3)\\[0.7em]={}&(x^2+7x+6)(x^2+5x+6)\\[0.7em]={}&(x^2+6+7x)(x^2+6+5x)\\[0.7em]={}&(x^2+6)^2+12x(x^2+6)+35x^2\\[0.7em]={}&x^4+12x^2+36+12x^3+72x+35x^2\\[0.7em]={}&x^4+12x^3+47x^2+72x+36\end{align}

例題1の(3)の解説
例題1

例題1, 2とは雰囲気が違うようです。\(x^2+y^2\)が2箇所に共通部分としてあるにはありますが、そこから計算するには\((x+y)^2\)や\((x-y)\)が邪魔に感じます。この問題では、\((x^2-xy+y^2)\)に反応することがポイントです。ここから公式の形を目指して組み合わせを考えてみましょう。

\begin{align}&(x+y)^2(x^2+y^2)(x^2-xy+y^2)(x-y)\\[0.7em]={}&(x+y)(x^2-xy+y^2)(x+y)(x^2+y^2)(x-y)\\[0.7em]={}&(x^3+y^3)(x+y)(x-y)(x^2+y^2)\\[0.7em]={}&(x^3+y^3)(x^2-y^2)(x^2+y^2)\\[0.7em]={}&(x^3+y^3)(x^4-y^4)\\[0.7em]={}&x^7-x^3 y^4+x^4 y^3-y^7\end{align}

後半では残った\((x+y), (x^2+y^2), (x-y)\)に注目して公式が使えないか組み合わせを考えました。この問題は公式の形を目指して何度も組み合わせを考える問題でした。

例題1の(4)の解説
例題1

\(x,y,z\)の順番がぐるぐる回っていて見にくいですが、4つの\(()\)の中身は、\(x,y,z\)が全て正・\(x\)のみ負・\(y\)のみ負・\(z\)のみ負となっています。1つ目と2つ目の\(()\)の中の\(y+z\)と、3つ目と4つ目の\(()\)の中の\(y-z\)が共通しているので(3つ目は\(-(y-z)\)と見る)、この部分をまとめて考えます。

\begin{align}&(x+y+z)^2-(y+z-x)^2+(z+x-y)^2+(x+y-z)^2\\[0.7em]={}&\{(y+z)+x\}^2-\{(y+z)-x\}^2+\{x-(y-z)\}^2+\{x+(y-z)\}^2\\[0.7em]={}&\{(y+z)^2+2x(y+z)+x^2\}-\{(y+z)^2-2x(y+z)+x^2\}+\{x^2-2x(y-z)+(y-z)^2\}+\{x^2+2x(y-z)+(y-z)^2\}\\[0.7em]={}&4x(y+z)+2x^2+2(y-z)^2\\[0.7em]={}&4xy+4xz+2x^2+2y^2-4yz+2z^2\\[0.7em]={}&2x^2+2y^2+2z^2+4xy-4yz+4zx\end{align}

この問題は共通部分をまとめると展開公式の1と2のペアができるのもポイントです。このペア同士を加減することにより、打ち消し合う部分が生まれて計算量が軽減されています(今回の例では前半の\((y+z)^2\)と\(x^2\)、後半の\(2x(y-z)\)が消えています)

補足|他の共通部分をまとめた場合

今回は1つ目と2つ目、3つ目と4つ目の括弧をそれぞれ組にして考えましたが、他の場合でも計算することができます。計算量も変わりません。解説通りの組み合わせでないと上手くいかないわけではないので安心してください。

(1つ目と3つ目、2つ目と4つ目の場合)

\begin{align}&(x+y+z)^2-(y+z-x)^2+(z+x-y)^2+(x+y-z)^2\\[0.7em]={}&\{(x+z)+y\}^2+\{(x+z)-y\}^2-\{y-(x-z)\}^2+\{y+(x-z)\}^2\\[0.7em]={}&\{(x+z)^2+2y(x+z)+y^2\}+\{(x+z)^2-2y(x+z)+y^2\}-\{y^2-2y(x-z)+(x-z)^2\}+\{y^2+2y(x-z)+(x-z)^2\}\\[0.7em]={}&2(x+z)^2+2y^2+4y(x-z)\\[0.7em]={}&2x^2+4xz+2z^2+2y^2+4yx-4yz\\[0.7em]={}&2x^2+2y^2+2z^2+4xy-4yz+4zx\end{align}

(1つ目と4つ目、2つ目と3つ目の場合)

\begin{align}&(x+y+z)^2-(y+z-x)^2+(z+x-y)^2+(x+y-z)^2\\[0.7em]={}&\{(x+y)+z\}^2+\{(x+y)-z\}^2-\{z-(x-y)\}^2+\{z+(x-y)\}^2\\[0.7em]={}&\{(x+y)^2+2z(x+y)+z^2\}+\{(x+y)^2-2z(x+y)+z^2\}-\{z^2-2z(x-y)+(x-y)^2\}+\{z^2+2z(x-y)+(x-y)^2\}\\[0.7em]={}&2(x+y)^2+2z^2+4z(x-y)\\[0.7em]={}&2x^2+4xy+2y^2+2z^2+4zx-4zy\\[0.7em]={}&2x^2+2y^2+2z^2+4xy-4yz+4zx\end{align}

例題1の(5)の解説
例題1

(4)と似ているので同様に共通部分をまとめてみましょう。

\begin{align}&(x+y+z)(y+z-x)(z+x-y)(x+y-z)\\[0.7em]={}&\{(y+z)+x\}\{(y+z)-x\}\{x-(y-z)\}\{x+(y-z)\}\\[0.7em]={}&\{(y+z)^2-x^2\}\{x^2-(y-z)^2\}\\[0.7em]={}&-\{x^2-(y+z)^2\}\{x^2-(y-z)^2\}\\[0.7em]={}&-[x^4-\{(y+z)^2+(y-z)^2\}x^2+(y+z)^2(y-z)^2]\\[0.7em]={}&-[x^4-\{2(y^2+z^2)\}x^2+(y^2-z^2)^2]\\[0.7em]={}&-x^4-y^4-z^4+2x^2y^2+2y^2z^2+2z^2x^2\end{align}

例題1の解答
例題1
  1. \(x^4+10x^3+35x^2+50x+24\)
  2. \(x^4+12x^3+47x^2+72x+36\)
  3. \(x^7-x^3 y^4+x^4 y^3-y^7\)
  4. \(2x^2+2y^2+2z^2+4xy-4yz+4zx\)
  5. \(-x^4-y^4-z^4+2x^2 y^2+2y^2 z^2+2z^2 x^2\)

(4)と(5)の共通点

目次

展開の問題で(4), (5)のように4つの\(()\)が登場してその中身が、\(x, y, z\)が全て正・\(x\)のみ負・\(y\)のみ負・\(z\)のみ負のパターンの問題はまあまあ見かけます。見た目は式が長くて大変そうですが、次の解答イメージを持っておくと落ち着いて解けると思います。

4つの括弧シリーズの解答イメージ
  1. 共通部分を2組見つけてまとめる
  2. 展開公式1と2(5と6の場合もある)のペア同士の加減による打ち消し合いや和と差の積の公式を使う

3. まとめ

目次

今回の内容をまとめると、

  1. 計算スピード向上のために10個の展開公式を使いながら覚えよう。
  2. 計算のコツは共通部分をまとめて置き換えることと、計算する組み合わせを考えること。
  3. 組み合わせを考えるときは共通部分や公式の形を作ることを目指す。
  4. \((y+z)^2(y-z)^2=\{(y+z)(y-z)\}^2\)
  5. 展開公式1, 2(5, 6)のペア同士の加減による打ち消し合いを使うことがある。

ログインすると学習データを保存できます。アカウントをお持ちでない方は新規登録

マイページ画面