背理法の使いどきと複数の文字を含む条件

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この記事では慣れないと使うのが難しい背理法をどんな場面で使えばよいのか具体例を挙げてまとめていきます。また、複数の文字を含む複雑な条件について考え、「すべての」や「ある」を付けるとどうなるか考察を深めます。

目次

  1. 背理法の使いどきまとめ
  2. 複数の文字を含む条件と「すべての」・「ある」
  3. まとめと次回予告
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1. 背理法の使いどきまとめ

目次

どんなときに背理法を使いたいと考えるかというと、証明する命題を否定したほうが扱いやすく、議論が進めやすいときです。 つまり、扱いやすい・扱いにくいペアを知ることが背理法を考えるヒントになります。これをまとめたのが下の表です。

扱いにくい扱いやすい
無理数有理数
存在しない存在する
無限個存在する有限個のみ存在する
素数合成数(と1)
互いに素素数の公約数をもつ
ただ1通りに表される2通りの表し方がある
係数がすべて0(一次独立)0でない係数がある(一次従属)
「PならばQ」型の結論に「または」「PならばQ」型の仮定に「かつ」

この表の見方は左側の事柄を示したい時に背理法の利用を考えて、右側であると仮定して矛盾を示します

もちろんこれ以外にも問題によって柔軟に考えるべきですが、特に背理法の問題として出題されるならこの表に載っているものが出る可能性が高いです。 以下にそれぞれ具体例を載せておくので見てみてください。

(整数分野の問題が多いのでまだ学習していない人はとりあえず考え方を参考にしてください)

参考|\(\sqrt{2}+\sqrt{3}\)が無理数であることの証明

「\(\sqrt{2}\)が無理数であることを用いて\(\sqrt{2}+\sqrt{3}\)が無理数であることを証明してください。」という問題を考えます。

表で示したように「無理数であることの証明→有理数であると仮定して矛盾を示す」と考えます。 どう矛盾を示すかが難しいですが、今回は\(\sqrt{2}\)が無理数であることが与えられているのでこれと矛盾させましょう。 このように「○○が無理数であることを用いて→〇〇が有理数になる矛盾を示す」と考えましょう。

上の発想にしたがって、\(\sqrt{2}+\sqrt{3}=r\)(\(r\)は有理数)とおきます。 \(\sqrt{2}\)が無理数であることの証明の時のように\(\dfrac{p}{q}\)\(\left(\dfrac{p}{q}\text{は既約分数}\right)\)とおいても問題ありませんが、 今回はこの大雑把なおき方でも大丈夫です。

ここから\(\sqrt{2}=(\text{有理数})\)という矛盾を目指します。 \(\sqrt{3}\)が邪魔なので2乗しますが、そのまま2乗すると上手くいかないので移項して左辺に\(\sqrt{3}\)だけを残して2乗します。

\[\sqrt{3}=r-\sqrt{2}\]

\[\text{両辺を2乗して} \qquad 3=r^2-2\sqrt{2}r+2\]

\[\text{\(r \neq 0\)なので} \qquad \sqrt{2}=\dfrac{r^2-1}{2r}\]

ここで\(r\)は有理数なので右辺は有理数です。(注: 有理数の四則演算は有理数)しかし、これは\(\sqrt{2}\)が無理数であることに矛盾しています。 よって、\(\sqrt{2}+\sqrt{3}\)は無理数です。

このように無理数であることの証明は有理数であると仮定して矛盾を示しましょう。 また、この問題を\(r=\sqrt{2}+\sqrt{3}\)となるような有理数\(r\)は存在しないと解釈すれば、表の2番目の「存在しない→存在すると仮定して矛盾を示す」とも読み取れます。

無理数を扱う証明問題としてこの記事では無理数の独立の証明もあるので良ければご覧ください。 また、無理数の証明問題を集めた「(代数的)無理数まとめ(準備中)」もどうぞ。

参考|素数が無限個存在することの証明

「無限個存在することの証明→有限個しか存在しないと仮定して矛盾を示す」と考えます。 証明は素数が有限個しか存在しないと仮定したのに、仮定した素数から新しい素数が作れてしまうという矛盾を示します。

素数が有限個しか存在しないと仮定します。ここではその仮定した有限個の素数を\(p_1,\) \(p_2,\cdots\cdots,\) \(p_n\)とおきます。(裏を返せば素数はこれ以外に存在しないと仮定している。)

ここで\(P=p_1\times p_2\times\cdots\cdots\times p_n\)とすると、\(P\)はもちろん仮定した有限個の素数すべてで割ることができます。 しかし、\(P+1\)を考えると仮定した任意の素数で割ると余り1となってしまい、割り切れません。つまり\(P+1\)は素数となり、仮定と矛盾します。

したがって、素数は無限個存在します。

注意:素数の積に1を加えると素数になるわけではありません。 小さな素数から順番に掛け合わせていけば同じように素数が作り出せそうな気もしますが、実際はそうはなりません。

例えば、\(2\times3\times5\times7\times11\times13+1= {} \)\(30031= {} \)\(59\times509\)となり、素数ではありません。 よく観察してみると、\(30031\)は確かに\(13\)以下の素数では割り切れませんが実際には\(13\)より大きな素数もあるわけで、その数で割れてしまっています。

参考|\(2^n-1\)が素数ならば\(n\)も素数であることの証明

この問題は対偶証明法を使います。 前回解説したように背理法と対偶証明法は本質的には同じで、使用感が違います。 本問では対偶が示しやすいので対偶証明法を選択しました。

発想のポイントとなるのは「素数ならば素数」より「合成数ならば合成数」の方が扱いやすいと考えることです。 (補足:合成数とは2以上の素数でない自然数のことを言います。) 表に「(と1)」と書きましたが、1は個別に示しましょう。それでは解答に行きます。

対偶「\(n\)が素数でないならば\(2^n-1\)も素数でない」を示します。

\(n=1\)のとき、\(2^n-1=2^1-1=1\)より、\(2^n-1\)は素数ではありません。

\(n\)が合成数のとき、\(n=ab\)(\(a,b\)は1より大きい自然数)と表されます。このとき、

\[2^n-1=2^{ab}-1=(2^a)^b-1^b=(2^a-1)\{(2^a)^{b-1}+(2^a)^{b-2}+\cdots\cdots+1\}\]

となります。ここで、\(a,b\)は1より大きい自然数なので、 \(2^a-1 \geqq 2^2-1=3\)かつ\((2^a)^{b-1}+(2^a)^{b-2}+\cdots\cdots+1 \geqq {} \)\( (2^2)^{2-1}+1= {} \)\(5\)

となるので、\(2^n-1\)は\(1\)とそれ自身以外の正の約数をもちます。 つまり、\(2^n-1\)は素数ではありません。したがって、対偶が真なのでもとの命題も真です。

補足:\(2^n-1\)(\(n\)は自然数)の形の数をメルセンヌ数、メルセンヌ数のうち素数であるものをメルセンヌ素数といいます。

参考|連続する2つの自然数は互いに素であることの証明

互いに素とは2つの整数の最大公約数が1であることを指します。つまり、分数で分母と分子にきたときに約分できない整数のペアです。(厳密には\(0\)と\(\pm1\)のペアも互いに素) この「互いに素であること」の証明にも背理法を利用するのですが、まずはそのときの仮定がなぜ「素数の公約数をもつこと」になるか説明します。

(注: 以下では\(0\)と\(0\)のペアは考えないこととします。実は\(0\)と\(0\)の最大公約数は\(0\)です。詳しい解説は「(準備中)」をご覧ください。)

最大公約数は1以上なので、普通に考えると背理法の仮定は「2以上の最大公約数をもつ」となるはずです。 今回使う「素数の公約数をもつ」という仮定はこれと同値な条件になっています。 なぜこのような言い換えを行うかというと、公約数のうち特に素数に注目すると上手くいくパターンがあるからです。 補足として載せておいたので気になる人は見てみてください。

準備が整ったので証明に入ります。連続する2つの自然数を\(n,\) \(n+1\)(\(n\)は自然数)とおきます。 \(n,\) \(n+1\)が互いに素でない、つまり、ある素数\(p\)を公約数にもつと仮定すると、

\[n=pk\cdots\cdots\text{①}, \quad n+1=pl\cdots\cdots\text{②} \quad \text{(\(k,l\)は自然数, \(k < l\))}\]

と表されます。そして②\({} - {}\)①より、\(1=p(l-k)\)となります。 ここで\(l-k\)は自然数なので\(p=1\)かつ\(l-k=1\)となりますが、これは\(p\)が素数であることに矛盾します。よって、連続する2つの自然数は互いに素です。

補足|素数に注目すると上手くいく例

問題「自然数\(a,b\)について、\(a\)と\(b\)が互いに素であるならば、\(a+b\)と\(ab\)は互いに素であることを証明してください。」を考えます。 「\(P\)ならば\(Q\)」型であることに気をつけて、背理法を使いましょう。

「\(a\)と\(b\)は互いに素」かつ「\(a+b\)と\(ab\)は素数の公約数をもつ」を満たす自然数\(a,b\)が存在すると仮定します。このとき、

\[a+b=pk\cdots\cdots\text{①}, \quad ab=pl\cdots\cdots\text{②} \quad \text{(\(k,l\)は自然数)}\]

と表されます。ここで\(p\)は素数なので②より「\(a\)は\(p\)の倍数」または「\(b\)は\(p\)の倍数」です。

\(a\)が\(p\)の倍数とすると、\(a=pm\)(\(m\)は自然数)と表されます。 しかし、このとき①より、\(b=pk-a=pk-pm=p(k-m)\)となり\(b\)も\(p\)の倍数となってしまい、これは\(a\)と\(b\)は互いに素であることに矛盾します。

\(b\)が\(p\)の倍数とした場合も同様に矛盾します。したがって仮定は間違いで\(a+b\)と\(ab\)は互いに素です。

マーカー部分で「素数」の公約数をもつと仮定したことが活きています。 なお、この部分の詳しい証明を知りたい方は「(準備中)」をどうぞ。

参考|1次方程式の解の一意性の証明

数学の問題の一つに「ただ一つ存在すること」を証明するものがあります。このような問題の証明方法を学ぶために1次方程式を例に挙げて紹介します。 1次方程式の答えがただ一つ存在することは当たり前ですが、今回紹介する方法は広く応用できます。

問題:\(a,b\)を実数とします。(\(a \neq 0\))このとき、1次方程式\(ax=b\)が解をただ一つもつことを証明してください。

証明の手順は①解が存在することを示す ②(存在すれば)解がただ一つであることを示すという流れになります。 ①は存在命題の証明です。忘れてしまった人は「必要条件と十分条件・命題の証明方法 (前編)」に詳しい説明があります。

と言ってもやることは単純で、条件を満たすものを具体的に1つ例示して、それが確かに条件を満たすことを言うだけです。 この問題の場合は、\(x=\dfrac{b}{a}\)とすると、\((\text{左辺})=ax=a \cdot \dfrac{b}{a}=b=(\text{右辺})\)となるので、\(x=\dfrac{b}{a}\)は1次方程式\(ax=b\)の解です。よって、1次方程式\(ax=b\)は解をもちます。

ここまでで①は完了です。次に②を示しますが、ここで背理法を使います。 2通り(=異なる2つ)の解が存在すると仮定して議論を進めて、それが一致してしまうこと(矛盾)を示しましょう

2つの異なる数\(p,q\)が1次方程式\(ax=b\)の解だと仮定します。このとき\(ap=b\)かつ\(aq=b\)より、\(ap=aq\)です。

ここで、\(a \neq 0\)より両辺を\(a\)で割ると、\(p=q\)となり、\(p\)と\(q\)が異なる数であることに矛盾します。 以上から、1次方程式\(ax=b\)の解はただ一つ存在します。(もちろんその解は\(x=\dfrac{b}{a}\))

「ただ一つ存在すること」を証明するときはこの方針を思い出しましょう。

参考|無理数の独立の証明

数学では係数がすべて0になる場面に遭遇することがあります。今回はその中で集合と命題の問題として出題されやすい無理数の独立についての問題を解きます。

問題: \(\sqrt{2},\sqrt{3},\sqrt{6}\)が無理数であることを用いて次のことを証明してください。
命題「\(a,b,c\)が有理数のとき\(a+b\sqrt{2}+c\sqrt{3}=0\)ならば\(a=b=c=0\)」は真である。

ベクトルを勉強した事がある人は「一次独立に似ているな」と思ったかもしれません。 実際、これを「\(1,\sqrt{2},\sqrt{3}\)は有理数体上一次独立である」と表現するのでそのイメージは合っています。 「有理数体」という言葉が気になった人は「群・環・体論(準備中)」をご覧ください。(大学数学の内容です。)

さて、証明を考えます。本問は「係数がすべて\(0\)」に注目して背理法を使います。 ただし、結論に「かつ」が隠れていることに注意しましょう。このとき背理法(対偶証明法)を考えると、仮定に「または」が含まれることになります。

これがこの問題の難しいポイントとなります。 「または」が含まれているので、一度に矛盾を考えようとすると詰まってしまいます。そこで次のように捉えると解きやすいと思います。

(ベン図載せる)

今回の状況を表したベン図を用意しました。今から場合分けして矛盾を示すことで\(a,b,c\)の候補を少しずつ削っていきます。 最終的に真ん中の\(a=b=c=0\)の部分だけが残れば成功です。解説では矛盾が示されるたびに残っている範囲を図示していくので参考にしてください。

そして、矛盾を示す方法ですが「\(\sqrt{2}+\sqrt{3}\)が無理数であることの証明」でも出てきたように 「〇〇が無理数であることを用いて→〇〇が有理数になる矛盾を示す」を参考にして方針を立てましょう。 進め方も似ているので真似していきましょう。

まずはルートが多いので左辺に\(c\sqrt{3}\)だけを残して2乗します。

\[c\sqrt{3}=-a-b\sqrt{2}\]

\[\text{両辺を2乗して} \qquad 3c^2=a^2+2b^2+2ab\sqrt{2}\]

残ったルートは\(\sqrt{2}\)のみなので、\(\sqrt{2}=(\text{有理数})\)(矛盾)を目指します。そのために、\(ab \neq 0\)と仮定すると、

\[\sqrt{2}=\dfrac{3c^2-a^2-2b^2}{2ab}\]

となり、狙い通り\(\sqrt{2}=(\text{有理数})\)となってしまうので矛盾です。 つまり、\(ab \neq 0\)(\(\Leftrightarrow a \neq 0\) かつ \(b \neq 0\))は候補から外れます。

(ベン図載せる)

これにより残りの候補は\(a=0\)または\(b=0\)ですが、ここで左辺に\(b\sqrt{2}\)だけを残して2乗した場合も同様の議論ができます。実際に\(ac \neq 0\)と仮定すると、

\[b\sqrt{2}=-a-c\sqrt{3}\]

\[\text{両辺を2乗して} \qquad 2b^2=a^2+3c^2+2ac\sqrt{3}\]

\[\text{両辺を\(2ac(\neq 0)\)で割って} \qquad \sqrt{3}=\dfrac{2b^2-a^2-3c^2}{2ac}\]

となり、\(\sqrt{3}=(\text{有理数})\)となってしまうので矛盾です。 つまり、\(ac \neq 0\)(\(\Leftrightarrow a \neq 0\) かつ \(c \neq 0\))も候補から外れます。

(ベン図載せる)

残りの候補は「\(a=0\)」または「\(a \neq 0\)かつ\(b=0\)かつ\(c=0\)」です。よく見ると、2つ目は明らかに矛盾しているので\(a=0\)が確定します。 なので、ここからは「\(b,c\)が有理数のとき\(b\sqrt{2}+c\sqrt{3}=0\)ならば\(b=c=0\)」を証明していきます。

これまでと同じように「〇〇が無理数であることを用いて→〇〇が有理数になる矛盾を示す」を使いたいところです。 ここで、まだ利用していない無理数を考えると\(\sqrt{6}\)があります。このことから、\(\sqrt{6}\)が現れるような式変形を考えましょう。

\[\text{両辺に\(\sqrt{2}\)をかけて} \qquad 2b+c\sqrt{6}=0\]

\(c \neq 0\)と仮定すると、

\[\sqrt{6}=-\dfrac{2b}{c}\]

となり、\(\sqrt{6}=(\text{有理数})\)となってしまうので矛盾です。 つまり、(\(a=0\)かつ)\(c \neq 0\)も候補から外れます。

(ベン図載せる)

最後に残った削るべき候補は\(a=0\)かつ\(b \neq 0\)かつ\(c=0\)ですが、これも明らかに矛盾しています。以上から、\(a+b\sqrt{2}+c\sqrt{3}=0\)ならば\(a=b=c=0\)が証明されました。

参考|「\(P\)ならば\(Q\)」型の結論に「または」の例

「\(P\)ならば\(Q\)」型の命題において対偶証明のほうが簡単なときの合図として結論に「または」が含まれる場合があります。 理由は対偶を考えると、仮定に「かつ」が含まれ、こちらの方が扱いやすいからです。 例として次の問題を考えます。

問題: \(x\)が無理数ならば、\(x^2\)と\(x^3\)の少なくとも一方は無理数であることを示してください。

無理数より有理数のほうが扱いやすいことに加えて、結論に「少なくとも」が含まれるので対偶証明を狙いましょう。

対偶「\(x^2\)と\(x^3\)がともに有理数ならば、\(x\)は有理数」を示します。 \(x^2≠0\)のとき\(x=\dfrac{x^3}{x^2}=\dfrac{(\text{有理数})}{(\text{有理数})}=(\text{有理数})\)となります。 また、\(x^2=0\)のとき、つまり、\(x=0\)のときも\(x\)は有理数です。

以上より対偶は真なので、もとの命題も真となります。

2. 複数の文字を含む条件と「すべての」・「ある」

目次

これまでの記事では基本的に1つの文字についての条件を考えてきました。 しかし、例えば中学校で出てきた連立方程式は\(x,y\)の2文字についての条件です。このように、複数の文字についての条件も今までと同じように考えることができます。

しかし、注意が必要なのが複数の文字を含む条件に「すべての」や「ある」が付いた場合です。今回はこの場合について解説します。

集合と命題を学ぶ理由と集合・命題・条件の基本にて、「すべての」や「ある」は条件を命題に変えるものとして解説しましたが、 実はこれは1つの文字についての条件において言えることです。複数の文字を含む条件の例として次の問題を考えてみます。

問題:「すべての実数\(x\)について\(x^2 > y\)(\(y\)は実数)」は命題か条件のどちらですか。条件の場合、どの文字についての条件ですか。

基本に戻って考えると、真か偽か明確に決まる文や式を命題というのでした。 この問題は\(y\)の値が決まらないと真偽が判断できません。つまりこれは\(y\)についての条件です。それでは次の場合はどうでしょうか。

問題:「すべての実数\(x,y\)について\(x^2>y\)」は命題か条件のどちらですか。条件の場合、どの文字についての条件ですか。

真か偽か明確に決まる文や式を命題というので、これは命題です。ちなみに偽です。(反例は\(x=0,\) \(y=1\))

今起きていたことをまとめると、次のようになります。

「すべての」や「ある」の効果

「すべての」や「ある」が付くことで、もとの条件に含まれる文字のうち、「すべての」や「ある」が付いていない文字についての条件になります。 また、全部の文字に「すべての」や「ある」が付いている場合は命題になります

この考察が活きるのが、数Ⅱの軌跡と領域分野です。どのように活きるのか実際の例題を見て解説していきます。

例題1 存在条件の理解
目次

次の条件はどの文字の存在条件ですか。また、どの文字についての条件ですか。

  1. \(y=tx+t^2+1\)を満たす\(t\)が存在する。
  2. \(x^2+y^2=1\)かつ\(x+y=k\)を満たす\(x,y\)が存在する。

※各解説・解答からこの例題に戻れます

数Ⅱの軌跡と領域分野ではこれらの条件が表す範囲を不等号で表したり、図示することが求められます。 今回は具体的に解く必要はありませんが、問題の状況が理解できているかを問う内容になっています。

例題1の(1)の解説
例題1

「すべての」・「ある」が見当たりませんが、「存在する」が「ある」に対応しています。 存在条件という聞き慣れない言葉が出てきたので、まずはこれを説明します。

条件\(P(x,y)\)に対して、「ある\(x\)について\(P(x,y)\)」は\(y\)の値によって、\(P(x,y)\)を満たす\(x\)が存在するかどうかが決まるので\(y\)についての条件であることを先程学びました。 このとき、「\(x\)が存在するかどうか」を表す条件という意味でこの条件を\(x\)の存在条件といいます\(x\)の存在条件は\(x\)についての条件ではないことに注意してください。3文字以上の場合も同様に考えます。

(1)は「\(t\)が存在する」とあるので、\(t\)の存在条件です。そして、\(t\)が存在するかは\(x,y\)次第なので\(x,y\)についての条件です。

例題1の(2)の解説
例題1

(2)も同様です。「\(x,y\)が存在する」とあるので、\(x,y\)の存在条件です。そして、\(x,y\)が存在するかは\(k\)次第なので\(k\)についての条件です。

例題1の解答
例題1
  1. \(t\)の存在条件で、\(x,y\)についての条件
  2. \(x,y\)の存在条件で、\(k\)についての条件

この問題を具体的に解く方法が気になる人は「軌跡と領域(準備中)」をご覧ください。 今回あまり理解できなかったという人も軌跡と領域分野を学んだあとで見返すと理解が進むかもしれません。

3. まとめと次回予告

目次

まとめ

目次

今回の内容をまとめると、

  1. 証明する命題を否定したほうが扱いやすく、議論が進めやすいときに背理法を使う。
    扱いにくい扱いやすい
    無理数有理数
    存在しない存在する
    無限個存在する有限個のみ存在する
    素数合成数(と1)
    互いに素素数の公約数をもつ
    ただ1通りに表される2通りの表し方がある
    係数がすべて0(一次独立)0でない係数がある(一次従属)
    「PならばQ」型の結論に「または」「PならばQ」型の仮定に「かつ」
  2. 〇〇が無理数であることを用いて→〇〇が有理数になる矛盾を示す
  3. 「ただ一つ存在すること」の証明の手順は①解が存在することを示す ②(存在すれば)解がただ一つであることを示す
  4. 「すべての」や「ある」が付くと、もとの条件に含まれる文字のうち、「すべての」や「ある」が付いていない文字についての条件になる。 また、全部の文字に「すべての」や「ある」が付いている場合は命題になる。
  5. (\(x\)の存在条件)\(\neq\)(\(x\)についての条件)

次回予告

目次

第7回から第10回にかけて集合と命題を学んだので、次回からいろいろな方程式・不等式を解いていきます。その際、必要十分条件となる変形、つまり、同値変形を意識して解説していきます。 同値変形を理解しておくと、基本的な操作を機械的にできるようになり、解くのが楽になります。是非ご覧ください。

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