必要条件・十分条件と命題の証明方法(前編)

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今回は「集合と命題」分野でよく出題される必要条件・十分条件の紹介といろいろな形の命題の証明方法を解説します。分かりにくいところは直感的な説明を加えていきます。基礎から細かな注意点まで網羅したことでボリュームが多く、前後半に分かれていますが、最後まで読んでいただけると嬉しいです。

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1. 命題「PならばQ

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数学でよく出てくる命題の形として「PならばQ」という形式があります。これはどういう意味なのでしょうか。

必要条件・十分条件と集合の包含関係

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まず、2つの条件を用意します。ここではxについての条件としてP(x), Q(x)で表します。 これらの条件を使って「すべてのxについて『P(x)ならばQ(x)』」を考えます。 前回の記事「集合と命題を学ぶ理由と集合・命題・条件の基本」で解説したように、これは条件に「すべての」が付いているので命題になります。 そして、この命題をP(x)Q(x)とも書きます。

このとき条件P(x)仮定、条件Q(x)結論といいます。 この命題はxが条件P(x)を満たすとき必ず条件Q(x)も満たす場合は真となり、それ以外は偽となりますxが条件P(x)を満たさないときは条件Q(x)を満たしているか考える必要はないです。

さらにこの命題が真であるとき2つの条件にはそれぞれ特別な名前が付きます。 条件Q(x)は条件P(x)であるための必要条件であるといい、 反対に条件P(x)は条件Q(x)であるための十分条件であるといいます。

集合との関係も見てみましょう。条件P(x), Q(x)の真理集合をそれぞれA, Bとします。 P(x)Q(x)が真のとき「すべてのxについて『xAならばxB』」であるといえます。 このとき集合Aは集合Bの部分集合であるといい、AB(BAでも同じ)で表します。 日本語では「AB含まれる」・「BA含む」といいます。この状況をベン図で表すと下のようになります。

\(B\)が\(A\)を含むベン図

身近な場面で考える必要条件・十分条件

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この必要条件・十分条件を問う問題が頻出なのですが、初めはイメージがつかみにくいので日常の場面で考えてみましょう。

例えばお店に入って飲み物を注文する場面を考えます。あなたは注文する飲み物の候補を考えています。 まずその日は寒かったので、温かい飲み物から選ぶ必要があると考えました。そして候補になる条件はいろいろありますが、 特に期間限定メニューが気になっていたので、期間限定メニューの温かい飲み物であれば候補として十分だと考えました。

ここまでの流れを整理してベン図にすると下の図のようになります。

メニューのベン図

イメージとしては、温かい飲み物であることは注文候補であることの「より大まかな・緩い・粗い」条件で、 反対に期間限定の温かい飲み物であることは注文候補であることの「より具体的な・厳しい・細かい」条件といったところでしょうか。

この「より大まかな・緩い・粗い」・「より具体的な・厳しい・細かい」がそれぞれ「必要」・「十分」に対応します。 つまり、xを飲み物として条件R(x)を「xは注文候補である」、 条件S(x)を「xは温かい飲み物である」、条件T(x)を「xは期間限定メニューの温かい飲み物である」とすると、 S(x)R(x)であるための必要条件であるといえて、T(x)R(x)であるための十分条件であるといえます。

必要条件のベン図 十分条件のベン図

必要十分条件と集合の相等

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xについての2つの条件P(x), Q(x)について、2つの命題「P(x)Q(x)」と「Q(x)P(x)」を 「かつ」で結んだ命題「P(x)Q(x)かつQ(x)P(x)」をP(x)Q(x)と書きます。 P(x)Q(x)が真であるとき、条件P(x)は条件Q(x)であるための必要条件でもあり、十分条件でもあります。 このとき条件P(x)は条件Q(x)であるための必要十分条件であるといいます。 もちろん、条件Q(x)は条件P(x)であるための必要十分条件であるともいえます。

さらに、このとき条件P(x)と条件Q(x)同値(な条件)であるといいます。そして同値な条件に書き換えることを同値変形といいます。 今回の例を使うと、P(x)Q(x)が真のとき、条件P(x)を条件Q(x)に書き換えたり、 条件Q(x)を条件P(x)に書き換えたりすることを同値変形と呼びます。

先程と同様に集合との関係も見てみましょう。条件P(x), Q(x)の真理集合をそれぞれA, Bとします。 P(x)Q(x)が真のとき、「すべてのxについて『xAならばxB』かつ『xBならばxA』」が真といえます。 このとき2つの集合A, Bに属する要素が完全に一致します。そしてこのとき集合Aと集合Bは等しいといい、 A=B(B=Aでも同じ)で表します。この状況をベン図で表すと下のようになります。

集合の相等のベン図

導出から分かるようにA=Bが成り立つことと、「ABかつAB」が成り立つことは同じです。(A=Bを「ABかつAB」で定義することもあります。)

命題「PならばQ」の注意点1

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ここまでは厳密に「すべてのxについて『P(x)ならばQ(x)』」と書いてきましたが、 単に「P(x)ならばQ(x)」といった場合も頭に「すべてのxについて」を補って考えます。 実は、こちらの言い方のほうがよく使われます。数学ではこのように誤解の恐れがなければ「すべての」を省略することがしばしばあるので注意しましょう。

補足|Q. 「すべての」が付いて命題になるなら「P(x)ならばQ(x)」は条件ではないですか?

A. 厳密にはその通りです。とても鋭い質問なのでここまで気になった人はよく勉強していると思います。 高校数学で考える場面はほとんどありませんが、条件「P(x)ならばQ(x)」を前回学習した「かつ」・「または」・否定を使って表すと 条件「『P(x)でない』または『Q(x)』」と同値です。

この条件の真理集合をベン図で表すと下の図のようになります。

「\(P(x)\)ならば\(Q(x)\)」の真理集合

そして、この条件が「すべてのx」について成り立つ場合、 たしかにABとなります。

「すべての\(x\)」について成り立つ場合

命題「PならばQ」の注意点2

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今までと同様に条件P(x), Q(x)の真理集合をそれぞれA, Bとして、命題「P(x)Q(x)」を考えます。 xが条件P(x)を満たさないときは条件Q(x)を満たしているか考える必要はないので、 もし条件P(x)を満たすxが存在しないとき、つまりA=であるとき、このとき命題は条件Q(x)にかかわらず真になります。

(例)「xを実数としてx2が負ならばxは無理数である」は真
(補足)このとき、命題「P(x)Q(x)」は「空ゆえに真」であるといいます。

また、集合との関係を確認するとBとなります。 ここで、条件Q(x)はどんな条件でも良いので、それに対応してBも任意の集合をとることができます。 つまり、空集合はどんな集合に対しても、その部分集合となります

2. 命題の証明方法

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ここまでに様々な形式の命題を見てきました。ここではその証明方法を解説します。 ところで、「すべての」が付いた命題を全称命題、「ある」がついた命題を存在命題といいます。 この用語を覚える必要はないですが、説明を簡潔にするために解説で使用します。

直接証明法と間接証明法

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命題を証明するのに、順に正しい推論を進め、証明する素直な方法を直接証明法といいます。これに対して、間接的に結論を導く方法を間接証明法といいます。 具体的には今から説明する背理法と後編の記事「必要条件・十分条件と命題の証明方法 (後編)」で登場する対偶証明法があります。

背理法とは命題が真であることを証明するのに、その命題が成り立たない(=偽である)と仮定して矛盾を導くことで命題が成り立つ(つまり、真である)ことを証明する方法です。 最初は分かりづらい考え方なので、一旦例題を見てみましょう。

(補足)間接証明法には他にも転換法・同一法などがあります。ほとんど使われませんが、数学Ⅰの 「2次方程式・不等式を解く(準備中)」で転換法を使う例が登場するので気になる人はご覧ください。

例題1 背理法を使った無理数であることの証明
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  1. 2が無理数であることを示してください。

※各解説・解答からこの例題に戻れます

例題1の(1)の解説
例題1

この例題を解いて背理法がどんなものか見てみましょう。はじめに、偽であると仮定するということはもとの命題を否定しましょう。 つまり、2が有理数である」と仮定します。

ここから矛盾を示す方法はそれぞれの問題によって慣れが必要です。 今回の問題は頻出問題でしかも「有理数」の扱い方が学べるので解答の流れを頭に入れておきましょう。

まず、有理数であることをどのように数式で表すかが問題です。定義に戻って考えると有理数とは分数の形に表される数なので、pqと表しましょう。 ただし、ここで約分可能だと扱いにくいので約分がこれ以上できない形とします。このような分数を既約分数といいます。

約分がこれ以上できない形としたのに議論を進めていくと約分ができてしまうことになるという矛盾を示します。解答は次のようになります。

例題1の解答
例題1

(スマホでは横持ち推奨)

  1. 2が有理数であると仮定すると、2は自然数p,qを用いて次のように表される。 2=pq(pqは既約分数)

    このとき, p=2qからp2=2q2⋯⋯①
    よって, p2は偶数であり, pも偶数である。⋯⋯(注)
    したがって, p=2k(kは自然数)⋯⋯② と表される。

    ②を①に代入すると 4k2=2q2すなわちq2=2k2 よって, q2は偶数であり, qも偶数である。

    つまり, pqも偶数となるが, これはpqが既約分数であることに矛盾する。
    したがって, 2は無理数である。

    (注)厳密には「p2が偶数であるならば, pも偶数である」を証明する必要があります。この命題の証明には次回学習する対偶証明法を使います。

背理法はもとの命題を否定したものを仮定することと、 有理数はpq(pqは既約分数)で表すことを覚えておきましょう。

ところで、この背理法はどこで使えるのかを見極めるのが難しいです。 なので、この前編後編が終わった次の記事「背理法の使い時まとめと複数の文字を含む条件」でまとめたので気になる人はご覧ください。

また、この問題にはいくつか別解があるので興味のある人は見てみてください。 さらなる別解は「無理数まとめ3選(準備中)」に掲載しています。

別解1|素因数の個数を比較

2が有理数であると仮定すると, 整数p, qを用いて2=pqと表せます。(既約分数でなくてもいい)

このとき, p2=2q2となりますが, ここで両辺の素因数2の個数を比較したいと思います。 同じ数の素因数を考えているので素因数の個数は一致するはずです。詳しくは「素因数分解の一意性(準備中)」をご覧ください。

しかし, 2乗に注目するとp, qの偶奇にかかわらず左辺は2が偶数個, 右辺は2が奇数個となり矛盾します。
したがって, 2は無理数です。

この解法は素因数分解の一意性を利用して矛盾を示しています。

別解2|無限降下法

2が有理数であると仮定すると, 自然数p, qを用いて2=pq⋯⋯①と表せます。(既約分数でなくてもいい)
このとき, 解答に示したようにpqも偶数になります。

つまり、自然数p, qが①を満たせば、自然数p2, q2も①を満たします。 このことを繰り返すといくらでも小さい自然数が存在することになります。(永遠に2で割れるから)

しかし, 自然数には最小値1が存在するのでこれは矛盾です。
したがって, 2は無理数です。

この解答は無限降下法と呼ばれる手法を用いて矛盾を示しています。 無限降下法について詳しく知りたい方は「無限降下法(準備中)」をご覧ください。

全称命題の証明方法

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ここからは命題の中でも「すべての」が付いた全称命題と「ある」が付いた存在命題の真偽の証明方法を詳しく見ていきます。

まず、全称命題「すべてのxについてP(x)」はxが何であってもいつも条件P(x)が成り立つことを示すので、 P(x)を式変形したりして真であることを示します。難しく聞こえますが、雑に言ってしまえば直感通りです。 ただ、この作業をもう少し丁寧に説明すると次のようになります。

補足|全称命題の証明方法の詳しい解説

先程の説明をよく見るとP(x)は条件なので真偽を判断するというのは厳密にはおかしいです。 なぜこのような説明をしたのか解説していきます。

全称命題の証明は厳密には次のように考えます。

  1. 全体集合Uの不特定の要素aを変数xに代入して、命題P(a)を考えます。
  2. 命題P(a)が真であることを証明します。

こうすれば、全体集合Uのどんな要素を代入しても命題P(a)が真であることがわかるので、全称命題を示せたことになります。 ところで、xaを代入する操作は結果を見ると文字を変えただけになっています。 そこで、P(x)の時点でxは全体集合Uの不特定の要素であると考えて、命題P(x)が真であることを証明すれば良さそうです。

このような背景から「P(x)が真であることを示す」と解説しました。

普段はあまりしませんが、偽であることを証明するときもあります。これは簡単で、「すべての」が間違っていることが示すには例外が存在することを示せばいいです。 この例外を反例といいます。

また、先程学んだ背理法を用いて真であることを証明する場合は偽であることを仮定して矛盾を導くので、 反例が存在すると仮定して矛盾が生じることを示します。

例題2 全称命題の証明
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次の各命題の真偽を答えてください。さらに、真である場合には証明し、偽である場合には反例を挙げてください。

  1. すべての整数xについて, x2+2x1は正である。
  2. すべての実数xについて, x2+2x+2は正である。

※各解説・解答からこの例題に戻れます

全称命題の真偽を答えるときは、まず反例がないか簡単な数で調べましょう。 見つからないときは真であると予想して証明を考える作業に移りましょう。

例題2の(1)の解説
例題2

x=0が反例です。よって、偽となります。

例題2の(2)の解説
例題2

x2+2x+2の値は

x=0のとき, 2x=1のとき, 5x=1のとき, 1

となり、反例が見つからなさそうなので証明を考えます。

ポイントは2つあるxを1つにまとめることです。 というのも、この式のまま考えるとxの値によってx22xも動いてしまうので、全体の動きが掴めません。 2次関数を学習すると出てくる考え方ですが先取りして覚えておきましょう。 どのようにまとめるかというとx2+2x+1=(x+1)2を使います。すると、

x2+2x+2=(x+1)2+1

となります。(実数)20なので、(右辺)>0となり、正であることが示せたので証明完了です。 「2つあるxを1つにまとめる」操作について詳しく知りたい人は2次関数分野の記事「さまざまなグラフ・グラフと方程式のつながり(準備中)」をご覧ください。

例題2の解答
例題2
  1. 偽である。反例はx=0
  2. 真である。
    (証明)x2+2x+2=(x+1)2+1>0 よって, すべての実数xについて, x2+2x+2は正である。

存在命題の証明方法

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存在命題と聞くと仰々しく聞こえますが、要は存在することを示せばいいだけです。つまり、次のようにして証明します。

  1. 条件を満たすものを例示する
  2. 例示したものが条件を満たすことを証明する

条件を満たすものを見つけてきてたしかに成り立つことを示せば終わりです。 このときどうやって条件を満たすものを見つけたのかは書く必要がありません。 なので、唐突に書き出して大丈夫です。

また、きちんと具体的に例示することも大切です。

補足|具体的に例示しないでミスした誤答例

きちんと例示しなかったために結論がおかしくなってしまった例を紹介します。

Q. 命題「ある自然数xについてx2+2x+1=0」の真偽を答えて、さらに証明してください。

(誤答例)
x2+2x+1=(x+1)2なのでx+1=0のときx2+2x+1=0
よって, 真である。

一見それっぽいですが、よく考えるとx+1=0となるような自然数xがそもそも存在しないので間違っています。 このようなミスをしないために具体的に例示しましょう。

そして偽であることを証明する場合は、条件を満たすものが存在してはいけないので「すべての要素が条件を満たさない」を証明します。 実はこれは全称命題になっています。この現象は「すべての」と「ある」の否定がそれぞれ「ある」・「すべての」と入れ変わることに関係しています。 見直してみると先程の全称命題が偽であることの証明の「反例が存在する」も存在命題です。

また、背理法では「すべての要素が条件を満たさない」と仮定して矛盾を示します。 注意点としてこの方法で証明された場合、条件を満たすものが存在することは分かっても具体的な値は分からないままとなります。

例題3 存在命題の証明
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次の各命題の真偽を答えて、さらに証明してください。

  1. ある整数xについて, x2+2x1は負である。
  2. ある実数xについて, x2+2x+2は0以下である。

※各解説・解答からこの例題に戻れます

存在命題の真偽を答えるときは、まず条件を満たす例が存在するか簡単な数で調べましょう。見つからないときは偽であると予想して証明を考える作業に移りましょう。

例題3の(1)の解説
例題3

x=0のときx2+2x1=1<0です。したがって命題は真です。

例題3の(2)の解説
例題3

(1)で気づいた人もいるかもしれませんが例題3は例題2の否定になっています。 なので、(2)は偽なのですが、その証明は 「すべての実数xについて、x2+2x+2は正である。(=だからx2+2x+2が0以下になるような実数xは存在しない。)」ことを示せばよいです。 つまり、例題2の(2)と同じ流れです。

x2+2x+2=(x+1)2+1>0より、命題は偽です。

例題3の解答
例題3
  1. x=0のときx2+2x1=1<0より, 真である。
  2. 偽である。
    (証明)x2+2x+2=(x+1)2+1>0 よって, x2+2x+20以下になるような実数xは存在しない。

ここまで見てきたように全称命題と存在命題はコインの表と裏のような関係になっています。 それぞれの証明方法について表にまとめると下のようになります。

全称命題存在命題
全部示す 見つける
見つける 全部示す

※背理法で真であることを示すときは偽のときの方法で進めて矛盾を示す。

3. まとめと次回予告

目次

まとめ

目次

今回の内容をまとめると、

  1. QPが真のときPQであるための必要条件、PQが真のときPQであるための十分条件、PQが真のときPQであるための必要十分条件
  2. 空集合はどんな集合に対しても、その部分集合
  3. もとの命題を否定したものを仮定して矛盾を示すのが背理法
  4. 全称命題・存在命題を証明するときは「全部示す」のか「見つける」のか考える

次回予告

目次

後編ではいよいよ頻出の「PならばQ」型命題の証明方法を扱います。 この形の命題は「すべての」が省略されていたので全称命題の考え方を使えば証明することができそうです。 また、今回登場した背理法以外の間接証明法である対偶証明法についても学びます。

そして、「PならばQ」型命題をきちんと証明することができるようになったところで今回学んだ必要条件・十分条件を実際に判別する問題を解いていきます。

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