4変数の式の値
最終更新日:
注: 本シリーズは演習形式となっています。自分で解いてみたい方は目次下の「クイズへ」からクイズページへと飛んでください。
目次
1. 第1問
目次Tips
目次- 変数が4つに対して条件式が3つなので、各変数の具体的な値は確定しないでしょう。しかし、式の値問題として出題されているということは問われている式の値は求められるように仕組まれているようです。
-
$x^2+y^2=1$といえば単位円の方程式です。三角関数に関する置き換えには次のようなものがあります。(すべて実数とします)
- $-1 \leqq x \leqq 1 \iff x = \cos\theta \text{を満たす$\theta$が存在する($\sin$も同様)}$
- $x^2+y^2=1 \iff \begin{cases} x=\cos\theta\\[0.5em] y=\sin\theta \end{cases} \quad \text{を満たす$\theta$が存在する}$
- $\begin{cases} P(x, y) \text{($x,y$についての条件)}\\[0.5em] x^2+y^2=1 \end{cases} \quad \text{を満たす$x,y$が存在する} \iff P(\cos\theta, \sin\theta) \text{を満たす$\theta$が存在する}$
- 条件式の原則的な扱いとして1文字消去があります。今回の場合はどれも2次式なので$a=\text{〇〇}$という形にするとルートが入ってきたりしてやや複雑になりそうです。
- 三角関数は公式が多いので整理して覚えましょう。加法定理から2倍角の公式が導けて、 その式を逆に$\theta$側について解くと、半角の公式や$\sin\theta,\cos\theta$の2次式を$\sin2\theta,\cos2\theta$の1次式に直す式が得られます。 こちらは2次の三角関数の同次式の最大最小問題や積分で使います。
- 式の値問題では、今までに求めた値を使って新しい式の値を求めることがあります。 代表的な問題は対称式の値を求める問題で、$x^5+y^5$などがよく問われます。 さらに、これを整理して漸化式の形にすることもあります。 詳しくは「対称式×漸化式」をご覧ください。
Tipsにあるように $a^2+b^2=1$の形から単位円を思い出し、三角関数に置き換えてみます。
\[ \begin{cases} a = \cos\theta \\[0.5em] b = \sin\theta \end{cases} \quad \begin{cases} c = \cos\varphi \\[0.5em] d = \sin\varphi \end{cases} \quad \text{(を満たす$\theta, \varphi$が存在する)} \]
とおきます。ここで問題になるのが3つ目の条件式です。この式が三角関数とうまく噛み合うか不安ですが、とりあえず置き換えてみましょう。すると、
\begin{align}ad-bc &= 0\\[0.7em]\cos\theta\sin\varphi-\sin\theta\cos\varphi &= 0\end{align}
なんだか複雑になってしまったのですが、よく見てみましょう。 この形は2015年センター試験でも出題された加法定理の逆の形です。 これを使ってさらに簡単にしてみます。
\begin{align}\cos\theta\sin\varphi-\sin\theta\cos\varphi &= 0\\[0.7em]\sin\theta\cos\varphi-\cos\theta\sin\varphi &= 0\\[0.7em]\sin(\theta - \varphi) &= 0\\[0.7em]\theta - \varphi &= n\pi \quad \text{($n$は整数)}\\[0.7em]\varphi &= \theta - n\pi\end{align}
よって、$\varphi$が$\theta$と同位相か逆位相であることがわかりました。 このことから$\varphi$を使って表されていた$c,d$についても$\theta$を使って表すことができそうです。 なので、それぞれ計算してみます。
\[\begin{cases} c = \cos\varphi = \cos(\theta - n\pi) = \pm\cos\theta \\[0.5em] d = \sin\varphi = \sin(\theta - n\pi) = \pm\sin\theta \end{cases} \quad \text{(複号同順)}\]
ここまでの計算により4つの変数を$\theta$によって媒介変数表示することができました。 条件式が3つだったことを考えると、$(4-3=)1$個の媒介変数で表されているので 条件式の情報はすべて活かされていることが確認できます。
あとは問われている式の値が$\theta$に依存しないように仕組まれているはずです。実際に求めてみましょう。 (なお、この結果から$c = \pm a,$ $d = \pm b$(複号同順)であることもわかります。)
\begin{align}&a^2 + d^2\\[0.7em]={}&\cos ^2\theta + (\pm\sin\theta) ^2\\[0.7em]={}&\cos ^2\theta + \sin ^2\theta\\[0.7em]={}&1\end{align}
無事に答えが求まりました。また、この問題には別解があるのでそちらも紹介します。基本的な考え方は1文字消去です。
$a,d$のみの式を作るために$ad-bc=0$から$b,c$を消去することを考えます。 単純に$b=$〇〇のような代入で消すことを考えると、$1$個目の条件式からルートが入って複雑そうなので、$b^2,c^2$の形で代入したいです。 よって、$ad-bc=0$の$-bc$を移項して全体を2乗することを考えます。
\begin{align}ad-bc&=0\\[0.7em]ad&=bc\\[0.7em]a^2d^2&=b^2c^2\\[0.7em]a^2d^2&=(1-a^2)(1-d^2)\\[0.7em]a^2d^2&=a^2d^2-a^2-d^2+1\\[0.7em]a^2+d^2 &= 1\end{align}
上手いこと$a^2d^2$が打ち消し合って、$a^2+d^2 = 1$と求まりました。
$ad-bc=0$という条件からベクトルに結びつけて考えることもできます。
\begin{align}ad-bc&=0\\[0.7em]ad&=bc\\[0.7em]a:c &= b:d\end{align}
のように変形できるので $\vec{x} = \begin{bmatrix}a \\ b\end{bmatrix},$ $\vec{y} = \begin{bmatrix}c \\ d\end{bmatrix}$ とすると、$\vec{x},\vec{y}$は平行であることがわかります。
よって、単位円上を動くことと合わせて考えると、$c=\pm a,$ $d=\pm b$(複号同順)となります。 したがって、$a^2+d^2=a^2+b^2=1$です。
(補足) 行列式の利用
行列$\begin{bmatrix}a & c \\ b & d\end{bmatrix}$の行列式$\begin{vmatrix}a & c \\ b & d\end{vmatrix}$を考えると、
\begin{align}&\begin{vmatrix}a & c \\ b & d\end{vmatrix}\\[0.7em]={}&ad-bc\\[0.7em]={}&0\end{align}
となるのでこの行列の2つの列ベクトルは1次独立ではありません。このことからも2つが平行であることを導けます。
(1)の置き換えから
\begin{align}&b^2 + c^2\\[0.7em]={}&\sin ^2\theta + (\pm\cos\theta) ^2\\[0.7em]={}&\sin ^2\theta + \cos ^2\theta\\[0.7em]={}&1\end{align}
となります。
(1)の別解と同じ発想が使えます。
\begin{align}ad-bc&=0\\[0.7em]ad&=bc\\[0.7em]a^2d^2&=b^2c^2\\[0.7em](1-b^2)(1-c^2)&=b^2c^2\\[0.7em]b^2c^2-b^2-c^2+1&=b^2c^2\\[0.7em]b^2+c^2 &= 1\end{align}
(1)の別解で解説したように$c=\pm a,$ $d=\pm b$(複号同順)なので、 $b^2+c^2=b^2+a^2=1$です。
(1)の置き換えから
\begin{align}&a^2 - c^2\\[0.7em]={}&\cos ^2\theta - (\pm\cos\theta) ^2\\[0.7em]={}&\cos ^2\theta - \cos ^2\theta\\[0.7em]={}&0\end{align}
となります。
やはり(1), (2)の別解と同じ発想が使えます。
\begin{align}ad-bc&=0\\[0.7em]ad&=bc\\[0.7em]a^2d^2&=b^2c^2\\[0.7em]a^2(1-c^2)&=(1-a^2)c^2\\[0.7em]a^2-a^2c^2&=c^2-a^2c^2\\[0.7em]a^2-c^2 &= 0\end{align}
(1)の別解で解説したように$c=\pm a,$ $d=\pm b$(複号同順)なので、 $a^2-c^2=a^2-a^2=0$です。
ここまでと全く同じ流れです。(1)の置き換えから
\begin{align}&b^2 - d^2\\[0.7em]={}&\sin ^2\theta - (\pm\sin\theta) ^2\\[0.7em]={}&\sin ^2\theta - \sin ^2\theta\\[0.7em]={}&0\end{align}
となります。
同様ですね。
\begin{align}ad-bc&=0\\[0.7em]ad&=bc\\[0.7em]a^2d^2&=b^2c^2\\[0.7em](1-b^2)d^2&=b^2(1-d^2)\\[0.7em]d^2-b^2d^2&=b^2-b^2d^2\\[0.7em]b^2-d^2 &= 0\end{align}
(1)の別解で解説したように$c=\pm a,$ $d=\pm b$(複号同順)なので、 $b^2-d^2=b^2-b^2=0$です。
置き換えは(1)のものですが、少しだけ流れが変わります。
\begin{align}&ab-cd\\[0.7em]={}&\cos\theta\sin\theta - (\pm\cos\theta)(\pm\sin\theta)\\[0.7em]={}&\cos\theta\sin\theta - \cos\theta\sin\theta \quad \text{(複号同順なので)}\\[0.7em]={}&0\end{align}
(4)までとパターンが変わるので少し難しいです。ただ、ここまでの流れから2乗の方が扱いやすいことがわかります。 そこで$(ab-cd)^2$が求められないか考えてみます。
また、三角関数の解法にも登場しましたが、 (1)の結果と$a^2+b^2=1$から$b^2=d^2$(つまり、$d=\pm b$)という関係式が得られるので、 これも利用します。
\begin{align}&(ab-cd)^2\\[0.7em]={}&a^2b^2-2abcd+c^2d^2\\[0.7em]={}&a^2d^2-2abcd+c^2b^2 \quad (\because b^2=d^2)\\[0.7em]={}&a^2d^2-2adbc+b^2c^2\\[0.7em]={}&(ad-bc)^2\\[0.7em]={}&0 \quad (\because ad-bc=0)\end{align}
したがって、$ab-cd=0$となります。
(1)の別解で解説したように$c=\pm a,$ $d=\pm b$(複号同順)なので、
\begin{align}&ab-cd\\[0.7em]={}&ab-(\pm a)(\pm b)\\[0.7em]={}&ab-ab\\[0.7em]={}&0\end{align}
となります。
ここまでと同様の置き換えをすると、
\begin{align}&ac+bd\\[0.7em]={}&\cos\theta(\pm\cos\theta) + \sin\theta(\pm\sin\theta)\\[0.7em]={}&\pm(\cos ^2\theta + \sin ^2\theta) \quad \text{(複号同順なので)}\\[0.7em]={}&\pm 1\end{align}
複号同順に気をつけましょう。この問題は答えが2つあります。(2通りの可能性がある)
(5)と同様に2乗を考えて$(ac+bd)^2$としますが、ここからが難しいです。恒等式
$(ac+bd)^2+(ad-bc)^2 = (a^2+b^2)(c^2+d^2)$
を使います。
(この恒等式の左辺について(1)で行った三角関数の置き換えをすると、 $\cos ^2(\varphi - \theta) + \sin ^2(\varphi - \theta)$ となります。この2つを組み合わせた理由がわかりますね。)
これさえ見つければ$(ac+bd)^2$以外の値はわかっているので代入するだけです。
\begin{align}(ac+bd)^2+(ad-bc)^2 &= (a^2+b^2)(c^2+d^2)\\[0.7em](ac+bd)^2 + 0^2 &= 1 \cdot 1\\[0.7em](ac+bd)^2 &= 1\end{align}
よって、$ac+bd = \pm 1$と求まります。
(1)の別解で解説したように $\vec{x} = \begin{bmatrix}a \\ b\end{bmatrix},$ $\vec{y} = \begin{bmatrix}c \\ d\end{bmatrix}$ とすると、$\vec{x},\vec{y}$は平行です。
ここで$ac+bd=\vec{x}\cdot\vec{y}$なので、 その値は2つのベクトルが同じ向きのときは$1$、逆向きのときは$-1$となります。 (※ベクトルの大きさはどちらも$1$)
- $a^2+d^2=1$
- $b^2+c^2=1$
- $a^2-c^2=0$
- $b^2-d^2=0$
- $ab-cd=0$
- $ac+bd=\pm1$
2. 第2問
目次Tips
目次- $x^2+y^2=1$は単位円ですが、$x^2-y^2=1$は双曲線の方程式です。そして、単位円が三角関数と関係しているように双曲線は双曲線関数と関係しています。双曲線関数の主な性質は以下の通りです。
- 双曲線$x^2-y^2=1$の$x > 0$側の曲線上の点を$\theta$を用いて$(\cosh\theta, \sinh\theta)$と媒介変数表示します。 この$\theta$はこの点と原点を結んだ直線が$x$軸となす角の2倍に相当します。 ($\cosh$の読み方は「ハイパボリックコサイン」)
- 上の媒介変数表示からわかるように$\cosh ^2\theta - \sinh ^2\theta = 1$という関係式が成り立ちます。また、$\tanh\theta = \dfrac{\sinh\theta}{\cosh\theta}$です。
-
この双曲線関数を使って文字の置き換えをすると、以下のようになります。
$$x^2-y^2=1 \iff \begin{cases} x=\pm\cosh\theta\\[0.5em] y=\sinh\theta \end{cases} \quad \text{を満たす$\theta$が存在する}$$
($\pm$が付いているのは$x < 0$の部分にも対応させるためです。)
- 三角関数とほぼ同様に加法定理が成り立ちます。ただし三角関数と比較すると、$\cosh$の右辺と$\tanh$の右辺の分母にある$+,-$がそれぞれ入れ替わることに注意しましょう。
-
双曲線関数の定義は
$$\begin{cases} \cosh x = \dfrac{e^x+e^{-x}}{2} \\[0.5em] \sinh x = \dfrac{e^x-e^{-x}}{2} \\[0.5em] \tanh x = \dfrac{\sinh x}{\cosh x} = \dfrac{e^x-e^{-x}}{e^x+e^{-x}} \end{cases}$$
です。ちなみに複素関数としての三角関数($\sin,\cos$)の定義は任意の複素数$z$に対して、
$$\begin{cases} \cos z = \dfrac{e^{iz}+e^{-iz}}{2} = \displaystyle\sum_{n=0}^\infty (-1)^n\dfrac{z^{2n}}{(2n)!} \\[0.5em] \sin z = \dfrac{e^{iz}-e^{-iz}}{2i} = \displaystyle\sum_{n=0}^\infty (-1)^n\dfrac{z^{2n+1}}{(2n+1)!} \end{cases}$$
となっています。($i$は虚数単位)詳しくは「複素関数(準備中)」をご覧ください。
Tipsの知識を利用して、 $a^2-b^2=1$の形から双曲線関数に置き換えてみます。
\[ \begin{cases} a = \pm\cosh\theta \\[0.5em] b = \sinh\theta \end{cases} \quad \begin{cases} c = \pm\cosh\varphi \\[0.5em] d = \sinh\varphi \end{cases} \quad \text{(を満たす$\theta, \varphi$が存在する、複号任意)} \]
問題1と同様に3つ目の条件式も置き換えてみます。
\begin{align}ad+bc &= 0\\[0.7em]\pm\cosh\theta\sinh\varphi+\sinh\theta(\pm\cosh\varphi) &= 0\end{align}
ここでTipsにあるように加法定理が使えます。$\sinh$については$\sin$と全く同じような式になることから次のように変形できます。 $a,c$が同符号か異符号かで状況が異なるので注意しましょう。
\begin{align}&\pm\cosh\theta\sinh\varphi+\sinh\theta(\pm\cosh\varphi) = 0\\[0.7em]&\pm\sinh\theta\cosh\varphi\pm\cosh\theta\sinh\varphi = 0\\[0.7em]&\sinh(\theta + \varphi) = 0 \quad \text{または} \quad \sinh(\theta - \varphi) = 0\\[0.7em]&\theta + \varphi = 0 \quad \text{または} \quad \theta - \varphi = 0 \quad \left(\sinh x = \dfrac{e^x-e^{-x}}{2}\text{より}\right)\\[0.7em]&\varphi = \mp\theta\end{align}
よって、$\varphi = \mp\theta$とわかりました。$\varphi = -\theta$は$a,c$が同符号の場合、$\varphi = \theta$は$a,c$が異符号の場合に対応するので注意してください。 これを使って、$c,d$についても$\theta$を使って表すことができます。 Tipsにある$\cosh$と$\sinh$の定義式から $\cosh$は偶関数、$\sinh$は奇関数であることに注目しましょう。
$a,c$が同符号のときは
\[\begin{cases} c = \pm\cosh\varphi = \pm\cosh(-\theta) = \pm\cosh\theta \\[0.5em] d = \sinh\varphi = \sinh(-\theta) = -\sinh\theta \end{cases} \quad \text{($c$の符号は$a$に対応)}\]
$a,c$が異符号のときは
\[\begin{cases} c = \mp\cosh\varphi = \mp\cosh\theta \\[0.5em] d = \sinh\varphi = \sinh\theta \end{cases} \quad \text{($c$の符号は$a$に対応)}\]
となり、符号の扱いが大変でしたが無事に3つの条件式を使って4変数を1つの文字で媒介変数表示することができました。 あとは問われている式の値が$\theta$に依存しないように仕組まれているはずなので、実際に求めてみましょう。 (なお、この結果から$c = \pm a,$ $d = \mp b$(複号同順)であることもわかります。こちらを使うほうが符号が混乱しなくて分かりやすいかもしれません。)
\begin{align}&a^2 - d^2\\[0.7em]={}&(\pm\cosh\theta)^2 - (\pm\sinh\theta)^2\\[0.7em]={}&\cosh ^2\theta - \sinh ^2\theta\\[0.7em]={}&1\end{align}
無事に答えが求まりました。また、この問題にも別解があるので以下で紹介します。
$a,d$のみの式を作るために$ad+bc=0$から$b,c$を消去することを考えます。 単純に$b=$〇〇のような代入で消すことを考えると、$1$個目の条件式からルートが入って複雑そうなので、$b^2,c^2$の形で代入したいです。 よって、$ad+bc=0$の$+bc$を移項して全体を2乗することを考えます。
\begin{align}ad+bc&=0\\[0.7em]ad&=-bc\\[0.7em]a^2d^2&=b^2c^2\\[0.7em]a^2d^2&=(a^2-1)(d^2+1)\\[0.7em]a^2d^2&=a^2d^2+a^2-d^2-1\\[0.7em]a^2-d^2 &= 1\end{align}
上手いこと$a^2d^2$が打ち消し合って、$a^2-d^2 = 1$と求まりました。
(1)の置き換えから
\begin{align}&b^2 - c^2\\[0.7em]={}&(\sinh\theta)^2 - (\pm\cosh\theta)^2\\[0.7em]={}&\sinh ^2\theta - \cosh ^2\theta\\[0.7em]={}&-(\cosh ^2\theta - \sinh ^2\theta)\\[0.7em]={}&-1\end{align}
となります。
(1)の別解と同じ発想が使えます。
\begin{align}ad+bc&=0\\[0.7em]ad&=-bc\\[0.7em]a^2d^2&=b^2c^2\\[0.7em](b^2+1)(c^2-1)&=b^2c^2\\[0.7em]b^2c^2-b^2+c^2-1&=b^2c^2\\[0.7em]b^2-c^2 &= -1\end{align}
(1)と同様に双曲線関数を使った置き換えをして計算すると、
$a,c$が同符号のとき
\begin{align}&ab+cd\\[0.7em]={}&(\pm\cosh\theta)(\sinh\theta) + (\pm\cosh\theta)(-\sinh\theta)\\[0.7em]={}&\pm\cosh\theta\sinh\theta \mp\cosh\theta\sinh\theta\\[0.7em]={}&0\end{align}
$a,c$が異符号のとき
\begin{align}&ab+cd\\[0.7em]={}&(\pm\cosh\theta)(\sinh\theta) + (\mp\cosh\theta)(\sinh\theta)\\[0.7em]={}&\pm\cosh\theta\sinh\theta \mp\cosh\theta\sinh\theta\\[0.7em]={}&0\end{align}
例題1と同様に2乗の方が扱いやすいことがわかるので、$(ab+cd)^2$が求められないか考えてみます。
また、双曲線関数に置き換えたときにもわかったように、 (1)の結果と$a^2-b^2=1$から$b^2=d^2$(つまり、$d=\pm b$)という関係式が得られるので、 これも利用します。
\begin{align}&(ab+cd)^2\\[0.7em]={}&a^2b^2+2abcd+c^2d^2\\[0.7em]={}&a^2d^2+2abcd+c^2b^2 \quad (\because b^2=d^2)\\[0.7em]={}&a^2d^2+2adbc+b^2c^2\\[0.7em]={}&(ad+bc)^2\\[0.7em]={}&0 \quad (\because ad+bc=0)\end{align}
したがって、$ab+cd=0$となります。
置き換えをすると、
$a,c$が同符号のとき
\begin{align}&ac+bd\\[0.7em]={}&(\pm\cosh\theta)(\pm\cosh\theta) + (\sinh\theta)(-\sinh\theta)\\[0.7em]={}&\cosh ^2\theta - \sinh ^2\theta\\[0.7em]={}&1\end{align}
$a,c$が異符号のとき
\begin{align}&ac+bd\\[0.7em]={}&(\pm\cosh\theta)(\mp\cosh\theta) + (\sinh\theta)(\sinh\theta)\\[0.7em]={}&-\cosh ^2\theta + \sinh ^2\theta\\[0.7em]={}&-1\end{align}
例題1と同様に、この問題は答えが2つあります。(2通りの可能性がある)
$(ac+bd)^2-(ad+bc)^2 = (a^2-b^2)(c^2-d^2)$
を使います。
\begin{align}&(ac+bd)^2-(ad+bc)^2 = (a^2-b^2)(c^2-d^2)\\[0.7em]={}&(ac+bd)^2 - 0^2 = 1 \cdot 1\\[0.7em]={}&(ac+bd)^2 = 1\end{align}
よって、$ac+bd = \pm 1$と求まります。
- $a^2-d^2=1$
- $b^2-c^2=-1$
- $ab+cd=0$
- $ac+bd=\pm1$
3. 第3問
目次Tips
目次-
グラフの平行・対称移動、拡大・縮小を行うとグラフの方程式は以下のように変化します。(もとのグラフの方程式から次のように置き換える。)
- 平行移動($x$軸方向に$p$、$y$軸方向に$q$)$x$を$x-p$、$y$を$y-q$に置き換え
- 対称移動$x$軸|$y$を$-y$に置き換え$y$軸|$x$を$-x$に置き換え原点|$x$を$-x$、$y$を$-y$に置き換え
- 拡大・縮小($x$軸方向に$a$倍、$y$軸方向に$b$倍)$x$を$\dfrac{x}{a}$、$y$を$\dfrac{y}{b}$に置き換え
- 平行移動($x$軸方向に$p$、$y$軸方向に$q$)
- 最大値はとりうる値の中で最も大きいものです。とりうる値を知りたいときは一度全体を$=k$と文字置きするのも有効です。 この文字置きにより、各変数(本問でいう$a,b,c,d$)が動いて全体の値が決まるという順像法の考え方だけでなく、各変数の存在条件を満たす$k$の値を考えるという逆像法の考え方も見えてきます。
- とりうる値を求めるには線形計画法も有効です。基本の考え方は数式による順像法・逆像法と一緒ですが、グラフを使って視覚的に考えられるので特に数式だと処理しにくい不等式が条件にあったときは便利です。
-
高校で習うベクトルは主に"幾何"ベクトルのことを指しますが、それはあくまでベクトルの一解釈で、本来のベクトルの姿はもっと抽象的です。
そんな事情から高校数学を学んでいるとたまに全然違う分野でベクトルが登場して驚くことがあります。
例えばコーシー・シュワルツの不等式
$$(a^2+b^2)(c^2+d^2) \geqq (ac+bd)^2$$がありますが、これは$\vec{x}=(a,b),$ $\vec{y}=(c,d)$とおくと、$$|\vec{x}|^2|\vec{y}|^2 \geqq (\vec{x} \cdot \vec{y})^2 \quad \left(\because \vec{x} \cdot \vec{y} = |\vec{x}||\vec{y}|\cos\theta \quad (\theta\text{は2つのベクトルのなす角})\right)$$のことを表していると解釈することができます。(※$n$次元に拡張可)
$\dfrac{x^2}{9}+\dfrac{y^2}{4}=1$のグラフは円$x^2+y^2=1$を$x$軸方向に$3$倍、$y$軸方向に$2$倍した楕円です。 この拡大した分を補正すれば問題1と同様に三角関数で置き換えることができます。実際に、
\begin{align}&\begin{cases} a = 3\cos\theta \\[0.5em] b = 2\sin\theta \end{cases} \quad \text{(を満たす$\theta$が存在する)}\\[0.7em]\end{align}
のようにします。(楕円の媒介変数表示)これを使って$a+b$を計算すると、
\begin{align}&a+b\\[0.7em]={}&3\cos\theta + 2\sin\theta\\[0.7em]={}&\sqrt{13}\sin(\theta + \alpha) \quad \left(\text{ただし}\cos\alpha = \dfrac{2}{\sqrt{13}},\ \sin\alpha = \dfrac{3}{\sqrt{13}}\right)\end{align}
となります。$\theta$のとりうる値の範囲が$0 \leqq \theta < 2\pi$なので、 $\theta + \alpha$のとりうる値の範囲は$\alpha \leqq \theta + \alpha < 2\pi + \alpha$です。($\alpha$は$0 < \alpha < \dfrac{\pi}{2}$を満たす定数)
したがって、$\theta + \alpha = \dfrac{\pi}{2}$のとき最大値$\sqrt{13}$をとります。また、このとき各変数の値を求めると、 $\theta = \dfrac{\pi}{2} - \alpha$より、
\begin{align}&\begin{cases} a = 3\cos\theta = 3\cos\left(\dfrac{\pi}{2} - \alpha\right) = 3\sin\alpha = \dfrac{9}{\sqrt{13}} \\[0.5em] b = 2\sin\theta = 2\sin\left(\dfrac{\pi}{2} - \alpha\right) = 2\cos\alpha = \dfrac{4}{\sqrt{13}} \end{cases}\\[0.7em]\end{align}
となります。この問題ですが、三角関数に置き換える方法以外にも多くの別解があるので興味のある人はご覧ください。
$a+b=k$とおいて$\dfrac{a^2}{9}+\dfrac{b^2}{4}=1$を満たすような$a,b$が存在する$k$についての条件を考えます。
\begin{align}&\begin{cases} a+b=k \\[0.5em] \dfrac{a^2}{9}+\dfrac{b^2}{4}=1 \end{cases} \quad \text{を満たす$a,b$が存在する}\\[0.7em]\iff&\left(\begin{cases} b=k-a \\[0.5em] \dfrac{a^2}{9}+\dfrac{b^2}{4}=1 \end{cases} \quad \text{を満たす$b$が存在する}\right) \quad \text{を満たす$a$が存在する}\\[0.7em]\iff&\dfrac{a^2}{9}+\dfrac{(k-a)^2}{4}=1 \quad \text{を満たす$a$が存在する}\end{align}
ここまで来れば2次方程式の解の存在条件の形になっているので、判別式を使って解けます。
\begin{align}\dfrac{a^2}{9}+\dfrac{(k-a)^2}{4}&=1\\[0.7em]4a^2+9(k-a)^2&=36\\[0.7em]13a^2-18ka+(9k^2-36)&=0\end{align}
判別式を$D$とすると、$\dfrac{D}{4} = (-9k)^2-13(9k^2-36)$です。 実数解をもつ条件は$D \geqq 0$なので、$\dfrac{D}{4} \geqq 0$です。これを解くと、
\begin{align}\dfrac{D}{4} &\geqq 0\\[0.7em](-9k)^2-13(9k^2-36) &\geqq 0\\[0.7em]9\{9k^2-13(k^2-4)\} &\geqq 0\\[0.7em]9(-4k^2+52) &\geqq 0\\[0.7em]36(-k^2+13) &\geqq 0\\[0.7em]-k^2+13 &\geqq 0\end{align}
したがって、$k$のとりうる値の範囲は$-\sqrt{13} \leqq k \leqq \sqrt{13}$となり、最大値は$\sqrt{13}$です。
また、$k=\sqrt{13}$のとき$D=0$となるので、2次方程式は重解をもちます。よって、
$$a=-\dfrac{-9\cdot\sqrt{13}}{13}=\dfrac{9}{\sqrt{13}}$$
$$b=k-a=\sqrt{13}-\dfrac{9}{\sqrt{13}}=\dfrac{4}{\sqrt{13}}$$
となります。
別解1と同様に$a+b=k$とおいた後、線形計画法を使って$k$のとりうる値の範囲を求めてみます。
高校数学では習いませんが、条件付き極値問題を解く方法として「ラグランジュの未定乗数法」というものがあります。 「ラグランジュの未定乗数法」自体について詳しく知りたい人は「ラグランジュの未定乗数法(準備中) 」をご覧ください。 この方法を使って解いてみると次のようになります。
$f(a,b)=a+b,$ $g(a,b)=\dfrac{a^2}{9}+\dfrac{b^2}{4}-1$とします。さらに、$L(a,b,\lambda)=f(a,b)-\lambda g(a,b)$とおきます。このとき、
\begin{align}&\nabla g=\left[\dfrac{\partial g}{\partial a}, \dfrac{\partial g}{\partial b}\right]=\left[\dfrac{2a}{9}, \dfrac{b}{2}\right]\\[0.7em]\end{align}
なので、$g(a,b)=0$の下では常に$\nabla g\neq\boldsymbol{0}$です。 よって、$(a^{\prime},b^{\prime})$が$g(a,b)=0$の下での$f(a,b)$の極値を与えるならば$(a^{\prime},b^{\prime})$は
$$\dfrac{\partial L}{\partial a}=\dfrac{\partial L}{\partial b}=\dfrac{\partial L}{\partial \lambda}=0$$
の解になります。(必要十分ではなく、必要条件)
\begin{align}&\dfrac{\partial L}{\partial a}=\dfrac{\partial L}{\partial b}=\dfrac{\partial L}{\partial \lambda}=0\\[0.7em]\iff&\begin{cases} 1-\dfrac{2}{9}a\lambda = 0 \\[0.5em] 1-\dfrac{1}{2}b\lambda = 0 \\[0.5em] -\left(\dfrac{a^2}{9}+\dfrac{b^2}{4}-1\right) = 0 \end{cases}\\[0.7em]\iff&\begin{cases} a = \dfrac{9}{2\lambda} \\[0.5em] b = \dfrac{2}{\lambda} \\[0.5em] \dfrac{a^2}{9}+\dfrac{b^2}{4}-1 = 0 \end{cases} \quad (\because \lambda \neq 0)\\[0.7em]\iff&\begin{cases} a = \dfrac{9}{2\lambda} \\[0.5em] b = \dfrac{2}{\lambda} \\[0.5em] \dfrac{9}{4\lambda ^2}+\dfrac{1}{\lambda ^2}-1 = 0 \end{cases}\\[0.7em]\iff&\begin{cases} a = \dfrac{9}{2\lambda} \\[0.5em] b = \dfrac{2}{\lambda} \\[0.5em] \dfrac{13}{4\lambda ^2} = 1 \end{cases}\\[0.7em]\iff&\begin{cases} a = \dfrac{9}{2\lambda} \\[0.5em] b = \dfrac{2}{\lambda} \\[0.5em] \lambda = \pm\dfrac{\sqrt{13}}{2} \end{cases}\\[0.7em]\iff&\begin{cases} a = \pm\dfrac{9}{\sqrt{13}} \\[0.5em] b = \pm\dfrac{4}{\sqrt{13}} \\[0.5em] \lambda = \pm\dfrac{\sqrt{13}}{2} \end{cases} \quad \text{(複号同順)}\end{align}
以上から、
$$\dfrac{\partial L}{\partial a}=\dfrac{\partial L}{\partial b}=\dfrac{\partial L}{\partial \lambda}=0$$
の解は$(a,b,\lambda) = \pm\left(\dfrac{9}{\sqrt{13}}, \dfrac{4}{\sqrt{13}}, \dfrac{\sqrt{13}}{2}\right)$となります。
ここで$f$は連続で$g(a,b)=0$が有界閉集合(有界≒無限に飛んでいない、閉集合…閉区間に相当する概念)なので、最大値をもちます。 先程の極値の候補から実際に$f(=a+b)$を計算してみると、$f\left(\dfrac{9}{\sqrt{13}}, \dfrac{4}{\sqrt{13}}\right)=\sqrt{13},$ $f\left(-\dfrac{9}{\sqrt{13}}, -\dfrac{4}{\sqrt{13}}\right)=-\sqrt{13}$ なので、$(a,b) = \left(\dfrac{9}{\sqrt{13}}, \dfrac{4}{\sqrt{13}}\right)$のとき最大値$\sqrt{13}$を取ることがわかります。
こちらの問題もいくつか解き方がありますが、まずは三角関数に置き換える方法を見ていきます。
\[ \begin{cases} a = 3\cos\theta \\[0.5em] b = 2\sin\theta \end{cases} \quad \begin{cases} c = 3\cos\varphi \\[0.5em] d = 2\sin\varphi \end{cases} \quad \text{(を満たす$\theta, \varphi$が存在する)} \]
$ac+bd$を計算すると、
\begin{align}&ac+bd\\[0.7em]={}&(3\cos\theta)(3\cos\varphi)+(2\sin\theta)(2\sin\varphi)\\[0.7em]={}&9\cos\theta\cos\varphi+4\sin\theta\sin\varphi\end{align}
ここで、問題1では加法定理の逆を使ってまとめることができたのですが、今回は係数が違うのでできません。 しかし、異なる2つの位相の$\sin$と$\cos$が出てくるのは嫌なのでどうにかしてなるべく同じものが登場するようにしたいです。 そこで、積和の公式を使いましょう。この公式は$\sin$同士・$\cos$同士の積なら$\cos$の加法定理2つを、異なるもの同士の積なら$\sin$の加法定理2つを足し引きすれば導出することができます。
$$\begin{cases} \cos\theta\cos\varphi = \dfrac{1}{2}\{\cos(\theta + \varphi) + \cos(\theta - \varphi)\} \\[0.5em] \sin\theta\sin\varphi = -\dfrac{1}{2}\{\cos(\theta + \varphi) - \cos(\theta - \varphi)\} \end{cases}$$
であるので、
\begin{align}&9\cos\theta\cos\varphi+4\sin\theta\sin\varphi\\[0.7em]={}&9\left[\dfrac{1}{2}\{\cos(\theta + \varphi) + \cos(\theta - \varphi)\}\right] + 4\left[-\dfrac{1}{2}\{\cos(\theta + \varphi) - \cos(\theta - \varphi)\}\right]\\[0.7em]={}&\dfrac{1}{2}\{9\cos(\theta + \varphi) + 9\cos(\theta - \varphi) - 4\cos(\theta + \varphi) + 4\cos(\theta - \varphi)\}\\[0.7em]={}&\dfrac{1}{2}\{5\cos(\theta + \varphi) + 13\cos(\theta - \varphi)\} \cdots\cdots\text{①}\end{align}
となります。ここで2つの$\cos$の扱いに戸惑う人もいると思いますが、これらは独立したものだと考えて問題ないです。 というのは$\alpha = \theta + \varphi,$ $\beta = \theta - \varphi$とおくと、$\alpha, \beta$がどんな値をとっても、$\theta = \dfrac{\alpha + \beta}{2},$ $\varphi = \dfrac{\alpha - \beta}{2}$から $\theta, \varphi$を逆算することができるからです。2つの媒介変数が$\theta, \varphi$から$\alpha, \beta$に変わったと考えれば大丈夫です。
そうなればあとはそれぞれの$\cos$が最大になる場合を考えればいいだけです。だだし、1点だけ$\alpha, \beta$のとりうる値の範囲に気をつけましょう。 ここで、話をわかりやすくするためにあらかじめ$\theta, \varphi$のとりうる値の範囲をそれぞれ$0 \leqq \theta < 2\pi,$ $0 \leqq \varphi < 2\pi$としておくと、 $0 \leqq \alpha < 4\pi,$ $-2\pi < \beta < 2\pi$の範囲を動きます。
このことから$(\alpha, \beta) = (0, 0), (2\pi, 0)$のとき①は最大になります。$\dfrac{1}{2}(5+13)=9$なので、その最大値は9です。 このとき$(\theta, \varphi) = (0, 0), (\pi, \pi)$となり、$(a,b,c,d) = \pm(3, 0, 3, 0)$となります。
式をベクトルを使って表すことで、ベクトルの性質から最大値を求めることを考えます。
そのために唐突ですが$\vec{x} = \begin{bmatrix}a \\ b\end{bmatrix},$ $\vec{y} = \begin{bmatrix}c \\ d\end{bmatrix}$とおきます。 すると、$ac+bd$は2つのベクトルの内積$\vec{x} \cdot \vec{y}$として捉えることができます。 この2つのベクトルは図形的に考えると、どちらも原点を始点とし楕円$\dfrac{x^2}{9}+\dfrac{y^2}{4}=1$上の点を終点とするベクトルであることがわかります。
内積の値を大きくするにはそれぞれのベクトルの大きさを大きくするか、2つのベクトルの向きを揃えるかの方法がありますが、 $\dfrac{x^2}{9}+\dfrac{y^2}{4}=1$のグラフが円$x^2+y^2=1$を$x$軸方向に$3$倍、$y$軸方向に$2$倍した楕円であることを考えればこの2つを同時に最適化することができます。 楕円の長軸方向に2つのベクトルを取れば大きさが最大かつ向きも一致します。
よって、$\vec{x} = \begin{bmatrix}3 \\ 0\end{bmatrix},$ $\vec{y} = \begin{bmatrix}3 \\ 0\end{bmatrix}$または$\vec{x} = \begin{bmatrix}-3 \\ 0\end{bmatrix},$ $\vec{y} = \begin{bmatrix}-3 \\ 0\end{bmatrix}$のとき$ac+bd$は最大値$9$をとります。
ラグランジュの未定乗数法は束縛条件が複数ある場合にも使えます。
$f(a,b,c,d)=ac+bd,$ $g_1(a,b)=\dfrac{a^2}{9}+\dfrac{b^2}{4}-1,$ $g_2(c,d)=\dfrac{c^2}{9}+\dfrac{d^2}{4}-1$とします。さらに、
$$L(a,b,c,d,\lambda)=f(a,b,c,d)-\lambda_1 g_1(a,b)-\lambda_2 g_2(c,d)$$
とおきます。このとき、
\begin{align}&\begin{cases} \nabla g_1=\left[\dfrac{\partial g_1}{\partial a}, \dfrac{\partial g_1}{\partial b}\right]=\left[\dfrac{2a}{9}, \dfrac{b}{2}\right] \\[0.5em] \nabla g_2=\left[\dfrac{\partial g_2}{\partial c}, \dfrac{\partial g_2}{\partial d}\right]=\left[\dfrac{2c}{9}, \dfrac{d}{2}\right] \end{cases}\\[0.7em]\end{align}
なので、$g_1(a,b)=0$かつ$g_2(c,d)=0$の下では常に$\nabla g_1\neq\boldsymbol{0}$かつ$\nabla g_2\neq\boldsymbol{0}$です。 よって、$(a^{\prime},b^{\prime},c^{\prime},d^{\prime})$が$g_1(a,b)=0$かつ$g_2(c,d)=0$の下での$f(a,b,c,d)$の極値を与えるならば$(a^{\prime},b^{\prime},c^{\prime},d^{\prime})$は
$$\dfrac{\partial L}{\partial a} =\dfrac{\partial L}{\partial b} =\dfrac{\partial L}{\partial c} =\dfrac{\partial L}{\partial d} =\dfrac{\partial L}{\partial \lambda_1} =\dfrac{\partial L}{\partial \lambda_2} =0$$
の解になります。(必要十分ではなく、必要条件)
\begin{align}&\dfrac{\partial L}{\partial a}=\dfrac{\partial L}{\partial b}=\dfrac{\partial L}{\partial c}=\dfrac{\partial L}{\partial d}=\dfrac{\partial L}{\partial \lambda_1}=\dfrac{\partial L}{\partial \lambda_2}=0\\[0.7em]\iff&\begin{cases} c-\dfrac{2}{9}a\lambda_1 = 0 \\[0.5em] d-\dfrac{1}{2}b\lambda_1 = 0 \\[0.5em] a-\dfrac{2}{9}c\lambda_2 = 0 \\[0.5em] b-\dfrac{1}{2}d\lambda_2 = 0 \\[0.5em] -\left(\dfrac{a^2}{9}+\dfrac{b^2}{4}-1\right) = 0 \\[0.5em] -\left(\dfrac{c^2}{9}+\dfrac{d^2}{4}-1\right) = 0 \end{cases}\\[0.7em]\iff&\begin{cases} c = \dfrac{2}{9}a\lambda_1 \\[0.5em] d = \dfrac{1}{2}b\lambda_1 \\[0.5em] a-\dfrac{2}{9}c\lambda_2 = 0 \\[0.5em] b-\dfrac{1}{2}d\lambda_2 = 0 \\[0.5em] \dfrac{a^2}{9}+\dfrac{b^2}{4}-1 = 0 \\[0.5em] \dfrac{c^2}{9}+\dfrac{d^2}{4}-1 = 0 \end{cases}\\[0.7em]\iff&\begin{cases} c = \dfrac{2}{9}a\lambda_1 \\[0.5em] d = \dfrac{1}{2}b\lambda_1 \\[0.5em] a-\dfrac{2}{9}\left(\dfrac{2}{9}a\lambda_1\right)\lambda_2 = 0 \\[0.5em] b-\dfrac{1}{2}\left(\dfrac{1}{2}b\lambda_1\right)\lambda_2 = 0 \\[0.5em] \dfrac{a^2}{9}+\dfrac{b^2}{4}-1 = 0 \\[0.5em] \dfrac{c^2}{9}+\dfrac{d^2}{4}-1 = 0 \end{cases}\\[0.7em]\iff&\begin{cases} c = \dfrac{2}{9}a\lambda_1 \\[0.5em] d = \dfrac{1}{2}b\lambda_1 \\[0.5em] a\left(1-\dfrac{4}{81}\lambda_1\lambda_2\right) = 0 \\[0.5em] b\left(1-\dfrac{1}{4}\lambda_1\lambda_2\right) = 0 \\[0.5em] \dfrac{a^2}{9}+\dfrac{b^2}{4}-1 = 0 \\[0.5em] \dfrac{c^2}{9}+\dfrac{d^2}{4}-1 = 0 \end{cases}\\[0.7em]\iff&\begin{cases} c = \dfrac{2}{9}a\lambda_1 \\[0.5em] d = \dfrac{1}{2}b\lambda_1 \\[0.5em] a = 0 \text{または} \lambda_1\lambda_2 = \dfrac{81}{4} \\[0.5em] b = 0 \text{または} \lambda_1\lambda_2 = 4 \\[0.5em] \dfrac{a^2}{9}+\dfrac{b^2}{4}-1 = 0 \\[0.5em] \dfrac{c^2}{9}+\dfrac{d^2}{4}-1 = 0 \end{cases}\\[0.7em]\iff&\begin{cases} c = \dfrac{2}{9}a\lambda_1 \\[0.5em] d = \dfrac{1}{2}b\lambda_1 \\[0.5em] \begin{cases}a = 0 \\[0.5em] b = 0 \end{cases} \quad \text{または} \quad \begin{cases}a = 0 \\[0.5em] \lambda_1\lambda_2 = 4 \end{cases} \quad \text{または} \quad \begin{cases}\lambda_1\lambda_2 = \dfrac{81}{4} \\[0.5em] b = 0\end{cases} \quad \text{または} \quad \begin{cases}\lambda_1\lambda_2 = \dfrac{81}{4} \\[0.5em] \lambda_1\lambda_2 = 4\end{cases} \\[0.5em] \dfrac{a^2}{9}+\dfrac{b^2}{4}-1 = 0 \\[0.5em] \dfrac{c^2}{9}+\dfrac{d^2}{4}-1 = 0 \end{cases}\\[0.7em]\iff&\text{解なし}\quad\text{または}\quad \begin{cases} c = \dfrac{2}{9}\cdot0\cdot\lambda_1 \\[0.5em] d = \dfrac{1}{2}b\lambda_1 \\[0.5em] a = 0 \\[0.5em] \lambda_1\lambda_2 = 4 \\[0.5em] \dfrac{a^2}{9}+\dfrac{b^2}{4}-1 = 0 \\[0.5em] \dfrac{c^2}{9}+\dfrac{d^2}{4}-1 = 0\end{cases} \quad \text{または} \quad \begin{cases} c = \dfrac{2}{9}a\lambda_1 \\[0.5em] d = \dfrac{1}{2}\cdot0\cdot\lambda_1 \\[0.5em] \lambda_1\lambda_2 = \dfrac{81}{4} \\[0.5em] b = 0 \\[0.5em] \dfrac{a^2}{9}+\dfrac{b^2}{4}-1 = 0 \\[0.5em] \dfrac{c^2}{9}+\dfrac{d^2}{4}-1 = 0\end{cases}\quad\text{または}\quad\text{解なし}\\[0.7em]\iff&\begin{cases} c = 0 \\[0.5em] d = \dfrac{1}{2}b\lambda_1 \\[0.5em] a = 0 \\[0.5em] \lambda_1\lambda_2 = 4 \\[0.5em] \dfrac{0^2}{9}+\dfrac{b^2}{4}-1 = 0 \\[0.5em] \dfrac{0^2}{9}+\dfrac{d^2}{4}-1 = 0\end{cases} \quad\text{または}\quad \begin{cases} c = \dfrac{2}{9}a\lambda_1 \\[0.5em] d = 0 \\[0.5em] \lambda_1\lambda_2 = \dfrac{81}{4} \\[0.5em] b = 0 \\[0.5em] \dfrac{a^2}{9}+\dfrac{0^2}{4}-1 = 0 \\[0.5em] \dfrac{c^2}{9}+\dfrac{0^2}{4}-1 = 0\end{cases}\\[0.7em]\iff&\begin{cases} c = 0 \\[0.5em] d = \dfrac{1}{2}b\lambda_1 \\[0.5em] a = 0 \\[0.5em] \lambda_1\lambda_2 = 4 \\[0.5em] b = \pm2 \\[0.5em] d = \pm2\end{cases} \quad\text{または}\quad \begin{cases} c = \dfrac{2}{9}a\lambda_1 \\[0.5em] d = 0 \\[0.5em] \lambda_1\lambda_2 = \dfrac{81}{4} \\[0.5em] b = 0 \\[0.5em] a = \pm3 \\[0.5em] c = \pm3\end{cases}\\[0.7em]\iff&(a,b,c,d,\lambda_1,\lambda_2) = (0,\pm2,0,\pm2,2,2),\ (0,\pm2,0,\mp2,-2,-2),\ \left(\pm3,0,\pm3,0,\dfrac{9}{2},\dfrac{9}{2}\right),\ \left(\pm3,0,\mp3,0,-\dfrac{9}{2},-\dfrac{9}{2}\right)\end{align}
以上から、
$$\dfrac{\partial L}{\partial a} =\dfrac{\partial L}{\partial b} =\dfrac{\partial L}{\partial c} =\dfrac{\partial L}{\partial d} =\dfrac{\partial L}{\partial \lambda_1} =\dfrac{\partial L}{\partial \lambda_2} =0$$
の解は
$$(a,b,c,d,\lambda_1,\lambda_2) = (0,\pm2,0,\pm2,2,2),\ (0,\pm2,0,\mp2,-2,-2),\ \left(\pm3,0,\pm3,0,\dfrac{9}{2},\dfrac{9}{2}\right),\ \left(\pm3,0,\mp3,0,-\dfrac{9}{2},-\dfrac{9}{2}\right)$$
となります。
ここで$f$は連続で$g_1(a,b)=0$と$g_2(c,d)=0$が有界閉集合なので、最大値をもちます。 先程の極値の候補から実際に$f(=ac+bd)$を計算してみると、
\begin{align}&f(0,\pm2,0,\pm2)=4\\[0.7em]&f(0,\pm2,0,\mp2)=-4\\[0.7em]&f(\pm3,0,\pm3,0)=9\\[0.7em]&f(\pm3,0,\mp3,0)=-9\end{align}
なので、$(a,b,c,d) = \pm(3, 0, 3, 0)$のとき最大値$9$を取ることがわかります。
その他の組については別解1のベクトルの内積として捉えるとわかりやすく、$(a,b,c,d) = \pm(3, 0, -3, 0)$が最小値$-9$、 $(a,b,c,d) = \pm(0, 2, 0, 2)$が極大値$4$、$(a,b,c,d) = \pm(0, 2, 0, -2)$が極小値$-4$をとる組み合わせになっています。
- $(a,b) = \left(\dfrac{9}{\sqrt{13}}, \dfrac{4}{\sqrt{13}}\right)$のとき最大値$\sqrt{13}$
- $(a,b,c,d) = \pm(3, 0, 3, 0)$のとき最大値$9$
4. まとめ
目次今回の内容をまとめると、
- 式の値問題は問われている式の値だけちょうど求められるように仕組まれていることがある。
- $x^2+y^2=1$は単位円の方程式、三角関数への置き換えを考える。
- 加法定理は逆向きに使うこともあるので注意。($2015$年センターⅡ・B)
- $x^2-y^2=1$は双曲線の方程式、三角関数とよく似た性質をもつ双曲線関数というものがある。
- 複数の符号が登場する場合は複号任意なのか、組み合わせに制限があるのか気をつける。
- 与えられた式をベクトルに結びつける発想もある。