対称式×漸化式
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今回は対称式の値問題で漸化式が利用できるパターンを解説します。この解法は高校数学の知識をフル活用する上に実用性も高いです。知っているだけで時短できるのでこの機会に覚えてしまいましょう。
目次
1. この記事を読むために必要な知識
目次本記事で出てくる用語の解説とその用語を詳しく扱っている記事へのリンク集です。
対称式とはどの2つの文字を交換しても、元の式と同じになる多項式のこと。例えば\(x^2+y^2\)は文字を交換すると\(y^2+x^2\)となり、元の式と同じものになるので対称式である。 また対称式のうち基本になるものを基本対称式と呼び、具体的には2文字の場合\(x+y,\) \(xy\)の2つ、3文字の場合\(x+y+z,\) \(xy+yz+zx, \) \(xyz\)の3つを基本対称式と呼ぶ(4文字以上の場合も同様)。
数列において、各項をその項よりも前の項の値を用いて表す等式のこと。 例えば1, 2番目が1、3番目以降が直前の2つの和になる数列(フィボナッチ数列)は、1,1,2,3,5,8⋯⋯となるが、 この数列の漸化式は、\(a_{n+2}= {} \)\(a_{n+1}+a_n\) となる。
漸化式(準備中)一般に次数が高い式より次数が低い式のほうが扱いやすいため、次数が低いものに置き換えることで処理しやすくする計算テクニックのこと。 具体例を挙げると、もし\(x^2= {} \)\(4x-1\) ならば\(x^4\)について考える時に\(x^4= {} \)\((x^2)^2= {} \)\((4x-1)^2= {} \)\(16x^2-8x+1= {} \)\(16(4x-1)-8x+1= {} \)\(56x-15\) と変形すること。
方程式の解と係数の間に常に成り立つ等式のこと。2次方程式\(ax^2+bx+c= {} \)\(0\) とその解\(\alpha,\beta\)の間には\(\alpha + \beta = {} \)\( - \frac{b}{a}\) かつ\(\alpha \beta = {} \)\( \frac{c}{a}\) が成り立ち、3次方程式\(ax^3+bx^2+cx+d= {} \)\(0\) とその解\(\alpha ,\beta, \gamma\)の間には\(\alpha + \beta + \gamma = {} \)\( - \frac{b}{a}\) かつ\(\alpha\beta+\beta\gamma+\gamma\alpha= {} \)\(\frac{c}{a}\) かつ\(\alpha\beta\gamma= {} \)\(-\frac{d}{a}\) が成り立つ。左辺は基本対称式になっている。4字以上も同様。
解と係数の関係(準備中)余りの関係に注目した式のこと。基本的に等号と同様の性質が成り立つが、両辺を何かで割るときは注意が必要。 便利な点として合同式を考えるときは余りが共通するもの同士を同じものとして捉えることができる。 つまり、より簡単な数に置き換えて余りを簡単に(本質的な部分だけを考えて)求めることができる。
イメージとしては例えば\(3\)で割った余りを考えるとき、\(2023\)と\(1\)は同じものとして捉えることができるので、 合同式の中で\(2023\)が出てきたら1に置き換えることができる。 これを利用すると、\(2023^n\)を\(3\)で割った余りを「\(2023^n \equiv 1^n \equiv 1 \pmod 3\) より\(1\)である」と簡潔に述べることができる。
合同式(準備中)2. 対称式の値問題の復習
目次式の値問題で対称式を利用するときは基本対称式を軸にして考えるのでした。 例えば\(x\)と\(y\)についての対称式の場合は\(x^2+y^2= {} \)\((x+y)^2-2xy\) のように\(x+y\)と\(xy\)を使って表します。
ただ、次数が大きくなってくると基本対称式に直すのが大変になります。 そこで、「対称式を利用した式の値の求め方」では\(a^5+b^5\)の値を求める時に基本対称式に直すのではなく、\(a^2+b^2\)や\(a^3+b^3\)の値を利用して求めていました。
本記事ではこの考え方を参考にして、大きな次数の対称式の値を機械的に求める方法を考えます。
3. 漸化式利用で求める対称式の値(2文字ver.)
目次対称式の問題でなぜ漸化式が登場するのでしょうか?まずは、その理由を探っていきます。
対称式と漸化式を繋ぐ解と係数の関係
目次次数下げの要となり、対称式と漸化式を繋ぐのが解と係数の関係です。 どういうことなのか見ていきましょう。
対称式の問題なのに突然出てきた解と係数の関係ですが、よく見ると基本対称式が入っています。ここから対称式との関連が見い出せそうです。
例えば\(a\), \(b\)についての対称式の値を考えるときに基本対称式が\(a+b=3\), \(ab=1\)だったとします。 ここでこの式を解と係数の関係の式だと捉えれば解が\(a\), \(b\)となる2次方程式を考えることができます。
このようにして\(a\), \(b\)を解に持つ2次方程式\(x^2-3x+1=0\)を考えることができます。 そして\(a\), \(b\)は解なのでこの方程式を満たすことから\(a^2=3a-1\)というように次数下げをすることができます。
ここから漸化式に繋ぐためにもうひと工夫します。 両辺に\(a^n\)(\(n\)は自然数)をかけて2乗以外のときも次数下げできるように一般化します。すると、\(a^{n+2}=3a^{n+1}-a^n\)となり3項間漸化式の形にすることができます。
こうして対称式から解と係数の関係を経由して漸化式へと繋げることができます。実際に例題を解いて使ってみましょう。
「対称式を利用した式の値の求め方」で出題した問題を次数を上げて再び出題しました。 \(a^7+b^7\)をどのように機械的に解くのかが今回のポイントです。
まずは、基本対称式を求めないことには始まりません。サクッと求めていきましょう。
\begin{align} &ab\\[0.7em]=&\frac{1}{2}\{(a+b)^2-(a^2+b^2)\}\\[0.7em]=&\frac{1}{2}(5^2-21)\\[0.7em]=&2 \end{align}
(1)より\(a+b=5\), \(ab=2\)が分かりました。ここで解と係数の関係を使ってみましょう。
解と係数の関係から\(a\), \(b\)を解に持つ2次方程式\(x^2-5x+2=0\)を考えることができます。 この方程式から\(a^2=5a-2\)となり、一般化して漸化式を作ると\(a^{n+2}=5a^{n+1}-2a^n\)となります。
そして、\(b\)も同様に \(b^{n+2}= {} \)\(5b^{n+1}-2b^n\) が成り立つので2つの式を足し合わせることにより、\(a^n+b^n\)の漸化式を作ることができます。
\begin{array}{rrrrrr} & a^{n+2} & = & 5a^{n+1} & - & 2a^n\\ +\large{)} & b^{n+2} & = & 5b^{n+1} & - & 2b^n\\ \hline & a^{n+2}+b^{n+2} & = & 5(a^{n+1}+b^{n+1}) & - & 2(a^n+b^n) \end{array}
見やすいように\(S_n=a^n+b^n\)とおくと、\(S_{n+2}=5S_{n+1}-2S_n\)となり、\(S_n(=a^n+b^n)\)についての漸化式が完成しました。 この漸化式を利用すれば\(a^7+b^7\)を機械的に解けそうです。一般項を求める必要はないので漸化式を利用して\(n=1,2,3\cdots\cdots\)と順番に求めていきましょう。
\(S_1=5\), \(S_2=21\)より、
\begin{align} &S_3=5S_2-2S_1=5 \times 21 - 2 \times 5 = 95\\[0.7em] &S_4=5S_3-2S_2=5 \times 95 - 2 \times 21 = 433\\[0.7em] &S_5=5S_4-2S_3=5 \times 433 - 2 \times 95 = 1975\\[0.7em] &S_6=5S_5-2S_4=5 \times 1975 - 2 \times 433 = 9009\\[0.7em] &S_7=5S_6-2S_5=5 \times 9009 - 2 \times 1975 = 41095 \end{align}
よって、\(a^7+b^7=41095\)と求まりました。
同じようにして、\(a^7-b^7\)も求めてみましょう。対称式ではありませんが、同じ考え方が使えます。
(4)の\(a^7-b^7\)を求めるための誘導だと予想できるといいです。 \((a-b)^2= {}\)\((a+b)^2- {}\)\(4ab\)を使いましょう。 この式だけでは\(a-b\)の符号が決まらないので、\(a > b\)という条件が追加されています。
\begin{align} &(a-b)^2\\[0.7em]=&(a+b)^2-4ab\\[0.7em]=&5^2-4\times2\\[0.7em]=&17 \end{align}
\(a > b\)より、\(a-b\)は正なので\(a-b=\)\(\sqrt{17}\)です。
(2)と全く同じようにして考えましょう。
\begin{array}{rrrrrr} & a^{n+2} & = & 5a^{n+1} & - & 2a^n\\ -\large{)} & b^{n+2} & = & 5b^{n+1} & - & 2b^n\\ \hline & a^{n+2}-b^{n+2} & = & 5(a^{n+1}-b^{n+1}) & - & 2(a^n-b^n) \end{array}
\(T_n=a^n-b^n\)とおくと、\(T_{n+2}= {} \)\(5T_{n+1}-2T_n\)となり漸化式が完成しました。 あとは、\(T_1,\) \(T_2\)を求めて、計算するのみです。きちんと整理して計算結果を書いて、計算ミスを防ぎましょう。
\(T_1=\sqrt{17}\), \(T_2= {} \)\(a^2-b^2= {} \)\((a+b)(a-b)= {} \)\(5\sqrt{17}\)より、
\begin{align} &T_3=5T_2-2T_1=5 \times 5\sqrt{17} - 2 \times \sqrt{17} = 23\sqrt{17}\\[0.7em] &T_4=5T_3-2T_2=5 \times 23\sqrt{17} - 2 \times 5\sqrt{17} = 105\sqrt{17}\\[0.7em] &T_5=5T_4-2T_3=5 \times 105\sqrt{17} - 2 \times 23\sqrt{17} = 479\sqrt{17}\\[0.7em] &T_6=5T_5-2T_4=5 \times 479\sqrt{17} - 2 \times 105\sqrt{17} = 2185\sqrt{17}\\[0.7em] &T_7=5T_6-2T_5=5 \times 2185\sqrt{17} - 2 \times 479\sqrt{17} = 9967\sqrt{17} \end{align}
よって、\(a^7-b^7=\)\(9967\sqrt{17}\)と求まりました。
(5)は頭の体操です。\(\frac{a^n}{b^n}+\frac{b^n}{a^n}\)の漸化式を考えるのではなく、今までに求めた値を利用すれば簡単に求められます。 解答は次のようになります。
\begin{align} &\frac{a^n}{b^n}+\frac{b^n}{a^n}\\[0.7em]=&\frac{a^{2n}+b^{2n}}{a^nb^n}=\frac{S_{2n}}{(ab)^n} \end{align}
この変形より
\begin{align} &\frac{a^3}{b^3}+\frac{b^3}{a^3}\\[0.7em]=&\frac{S_6}{(ab)^3}=\frac{9009}{2^3}=\frac{9009}{8} \end{align}
と求めることができます。
- \(2\)
- \(41095\)
- \(\sqrt{17}\)
- \(9967\sqrt{17}\)
- \(\frac{9009}{8}\)
続いてこの漸化式の応用例を紹介したいと思います。
受験数学では西暦を利用する問題がしばしば出ますが、例えば今回の対称式の値問題では次のような問題が考えられます。
このような問題でも先程の漸化式が役立ちます。どのように解くのか見ていきましょう。
もしも、\(a^{2023}+\)\(b^{2023}\)の値が分かるならば8で割るだけですが、先程のように順番に求めていくのは現実的ではありません。 また漸化式を解いて一般項を出すという方法も考えられなくはないですが、例えばフィボナッチ数列の一般項を考えるとたとえ整数の数列であっても一般項は複雑な形になることがあり、余りを求めるのには適していなさそうです。
注|フィボナッチ数列の一般項は
\[a_n=\frac{1}{\sqrt{5}}\left\{\left(\frac{1+\sqrt{5}}{2}\right)^n-\left(\frac{1-\sqrt{5}}{2}\right)^n\right\}\]
です。このように一般項は複雑ですが、\(n\)に自然数を入れると\(a_n\)は自然数になります。(注終わり)
というわけで\(S_{2023}\)の値を求める方法ではなく、別の方法を考える必要がありそうです。 カギとなるのは「8で割った余り」を答えることです。 8で割った余りは0から7までの8種類しかないので余りを調べていけば何か法則が見つかるかもしれません。 この方針で進めていきましょう。
余りの計算ではmodを使います。modについては「合同式(準備中)」で解説しているので詳しく知りたい方はご覧ください。
それでは余りを求めていきます。以下、8を法とします(=8で割った余りを考えます)。(再掲|\(S_{n+2}= {} \)\(5S_{n+1}-2S_n\))
\(S_1 \equiv 5,\) \(S_2 \equiv 5\)より、
\begin{alignat}{2} &S_3 \equiv 5 \times 5 - 2 \times 5 \equiv 15 &\equiv 7\\[0.7em] &S_4 \equiv 5 \times 7 - 2 \times 5 \equiv 25 &\equiv 1\\[0.7em] &S_5 \equiv 5 \times 1 - 2 \times 7 \equiv -9 &\equiv 7\\[0.7em] &S_6 \equiv 5 \times 7 - 2 \times 1 \equiv 33 &\equiv 1 \end{alignat}
\(S_n\)は直前の2つの値により決まります。なので、\(S_3=\)\(S_5\)かつ\(S_4=\)\(S_6\)が分かった時点で以降も7と1がループすることが分かります。 心配な人は\(S_7\)を求めてみると\(S_5\)と全く同じ計算式になることが確認できると思います。
以上から、\(n \geqq 3\)について\(S_n\)の余りは\(n\)が奇数ならば7、\(n\)が偶数ならば1であることがわかったので、 \(a^{2023}+\)\(b^{2023}\)を8で割った余りは7です。
- \(7\)
さらに他の応用例としてこの漸化式を証明に使うこともできます。次の問題を考えてみましょう。(難易度が高いのでスキップしても構いません。)
対称式の扱いだけでなく3乗根の扱いも求められるので難易度が上がっています。どのように解くのか見ていきましょう。
まず、「すべての自然数\(n\)について」成り立つことをどのように示すのか考えます。 素直に考えるとこれは全称命題なので\(\alpha^{n}+\beta^{n}\)の値を\(n\)を使って一般的に表して、その値がすべての自然数\(n\)について自然数になることを示せば証明できます。 しかし、例題2で見たように数列\(\{\alpha^{n}+\beta^{n}\}\)の一般項は複雑になる可能性があり、そもそも求めるのも大変です。 そこで今回も漸化式をうまく活用できないか考えます。
注目すべきは「すべての"自然数"\(n\)について」成り立つことを示す点です。このことから数学的帰納法の利用を考えましょう。 漸化式との相性もバッチリです。
漸化式を作るために基本対称式の値を調べます。\(\alpha\beta\)の値は
\begin{align} &\alpha\beta\\[0.7em]=&\sqrt[3]{38+17\sqrt{5}}\sqrt[3]{38-17\sqrt{5}}\\[0.7em]=&\sqrt[3]{(38+17\sqrt{5})(38-17\sqrt{5})}\\[0.7em]=&\sqrt[3]{38^2-(17\sqrt{5})^2}\\[0.7em]=&\sqrt[3]{-1}\\[0.7em]=&-1 \end{align}
と求められます。3乗根なので根号の中に負の数が入っても大丈夫なことに気をつけてください。
次に\(\alpha+\beta\)の値の値を知りたいのですが、ここで問題が発生します。\(\alpha+\beta\)の値は直接求められないのです。 証明内容よりこの値も自然数になるはずですが、そのままだと計算できません。 ここがこの問題のもう一つの山場で、3乗根の扱いをよく考える必要があります。
直接求められないなら間接的に求めます。\(\alpha^3, \beta^3, \alpha\beta\)の値はわかるのでこれらを使いたいです。 そこで、\((\alpha+\beta)^3= {} \)\(\alpha^3+\beta^3+3\alpha\beta(\alpha+\beta)\)を利用しましょう。 この式に出てくる\(\alpha+\beta\)以外の値はすべて先程挙げた値がわかるものなので代入すれば\(\alpha+\beta\)の値が求められそうです。
見やすいように\(x=\alpha+\beta\)とおきます。すると、
\begin{align} &x^3=(38+17\sqrt{5})+(38-17\sqrt{5})+3\cdot(-1)x\\[0.7em]&x^3+3x-76=0\\[0.7em]&(x-4)(x^2+4x+19)=0 \end{align}
となります。因数分解するときは\(x\)が自然数解をもつことを考えると早く見つけられます。(理由は\(x=\alpha+\beta\)だから。) \((x^2+4x+19)=0\)は虚数解しか持たず、\(x=\alpha+\beta\)は実数なので\(x=4\)です。 これで\(\alpha+\beta\)の値がわかったので漸化式を作ります。
\(\alpha+\beta=4,\) \(\alpha\beta=-1\)と解と係数の関係から\(\alpha^2-4\alpha-1=0\)となり、 移項して一般化すると\(\alpha^{n+2}= {} \)\(4\alpha^{n+1}+\alpha^{n}\)となります(\(\beta\)も同様)。 2つを足し合わせると、数列\(\{\alpha^{n}+\beta^{n}\}\)の漸化式を作れます。\(S_n=\alpha^n+\beta^n\)とおくと、\(S_{n+2}= {} \)\(4S_{n+1}+S_{n}\)です。
3項間漸化式なので\(n=1,2\)の場合を示して数学的帰納法を使います。
\(n=1\)は\(\alpha+\beta\)なので4です。 そして、\(n=2\)は\(\alpha^2+\beta^2= {} \)\((\alpha+\beta)^2-2\alpha\beta= {} \)\(4^2-2\cdot(-1)= {} \)\(18\)となります。 これで\(n=1,2\)のとき\(\alpha^{n}+\beta^{n}\)は自然数であることが示せました。
次に\(n=k,k+1\)(\(k\)は自然数)で成り立つと仮定して\(n=k+2\)での成立を示します。 \(S_{k+2}= {} \)\(4S_{k+1}+S_{k}\)より \(n=k,k+1\)のとき\(S_n\)が自然数であるならば\(n=k+2\)のときも自然数となります。
以上からすべての自然数\(n\)について\(S_n=\alpha^n+\beta^n\)は自然数です。
無事証明できましたが、すべての自然数\(n\)について\(\alpha^{n}+\beta^{n}\)が自然数になるのは随分綺麗な結果です。 それもそのはずでこの問題には裏があり、実は \(38 \pm 17\sqrt{5}= {} \)\((2 \pm \sqrt{5})^3\) なので、\(\alpha=2+\sqrt{5},\) \(\beta=2-\sqrt{5}\)です。
こう言われると、\(\alpha+\beta\)や\(\alpha\beta\)が綺麗に\(4\)や\(-1\)になるのも当たり前と言えます。 また、数字を変えれば類問をいくらでも作れることもわかります。
(スマホでは横持ち推奨)
-
\(\alpha=\sqrt[3]{38+17\sqrt{5}},\) \(\beta=\sqrt[3]{38-17\sqrt{5}}\)のとき
\begin{align} &\alpha\beta\\[0.7em]=&\sqrt[3]{38+17\sqrt{5}}\sqrt[3]{38-17\sqrt{5}}\\[0.7em]=&\sqrt[3]{(38+17\sqrt{5})(38-17\sqrt{5})}\\[0.7em]=&\sqrt[3]{38^2-(17\sqrt{5})^2}\\[0.7em]=&\sqrt[3]{-1}\\[0.7em]=&-1 \quad \cdots\cdots\text{①} \end{align}
\((\alpha+\beta)^3= {} \)\(\alpha^3+\beta^3+3\alpha\beta(\alpha+\beta)\) より\(x=\alpha+\beta\)とおくと
\begin{align} &x^3=(38+17\sqrt{5})+(38-17\sqrt{5})+3\cdot(-1)x\\[0.7em]&x^3+3x-76=0\\[0.7em]&(x-4)(x^2+4x+19)=0 \end{align}
ここで\(x=\alpha+\beta\)は実数なので\(x=4\)つまり\(\alpha+\beta=4\)⋯⋯②
\(S_n=\alpha^n+\beta^n\)とおく。 ①, ②を用いて, すべての自然数\(n\)について\(S_n\)は自然数であることを数学的帰納法により示す。
[1] \(n=1,2\)のとき
\[S_1=\alpha+\beta=4\] \[S_2=\alpha^2+\beta^2=(\alpha+\beta)^2-2\alpha\beta=4^2-2\cdot(-1)=18\]
となるので, \(S_1,\) \(S_2\)は自然数である。
[2] \(n=k,k+1\)(\(k\)は自然数)のとき\(S_n\)が自然数であると仮定する。
①, ②から\(\alpha,\beta\)は\(X\)についての2次方程式\(X^2-4X-1=0\)の2解なので、\(\alpha^2=4\alpha+1\)⋯⋯③かつ\(\beta^2=4\beta+1\)⋯⋯④
\(\text{③}\times\alpha^k+\text{④}\times\beta^k\)より\(S_{k+2}=4S_{k+1}+S_{k}\)なので仮定から\(n=k+2\)のときも自然数である。
[1],[2]より, すべての自然数\(n\)について\(S_n=\alpha^n+\beta^n\)は自然数である。
このように対称式の問題は漸化式と組み合わせることで大きな次数の値を求めたり、周期性を示したり、数学的帰納法による証明をしたりすることができます。 同じようにして、次は3文字の場合を考えてみましょう。
4. 漸化式利用で求める対称式の値(3文字ver.)
目次考え方は2文字の場合と全く同じなのでいきなり例題を見てみましょう。
3文字になると基本対称式とそれに対応する解と係数の関係・漸化式はどのように変化するでしょうか。
2文字の場合と同様、基本対称式を求めないことには始まりません。与えられた条件式を利用して求めていきましょう。
\((x+y+z)^2= {} \)\(x^2+y^2+z^2+2(xy+yz+zx)\)に \(x+y+z= {} \)\(1\)と \(x^2+y^2+z^2= {} \)\(7\)を代入すると
\begin{align} &1^2=7+2(xy+yz+zx)\\[0.7em] &xy+yz+zx=-3 \end{align}
と分かります。\(xyz\)の方は \(x^3+y^3+z^3\) と関連させて次の公式を使いましょう。
\begin{align} &x^3+y^3+z^3-3xyz=(x+y+z)(x^2+y^2+z^2-xy-yz-zx)\text{より}\\[0.7em] &19-3xyz=1\times\{7-(-3)\}\\[0.7em] &xyz=3 \end{align}
これで3つの基本対称式の値がわかりました。次は解と係数の関係です。
\(x+y+z= {} \)\(1,\) \(xy+yz+zx= {} \)\(-3,\) \(xyz= {} \)\(3\) より、\(x,\) \(y,\) \(z\)は3次方程式\(t^3-t^2-3t-3= {} \)\(0\)の解です。 つまり、\(x^3= {} \)\(x^2+3x+3\)となります(\(y,\) \(z\)についても同様)。 2文字のときと同様に考えて、\(S_n= {} \)\(x^n+y^n+z^n\)とおくと、 \(S_{n+3}= {} \)\(S_{n+2}+3S_{n+1}+3S_n\)となり、4項間漸化式が完成しました。
\(S_1= {} \)\(1,\) \(S_2= {} \)\(7,\) \(S_3= {} \)\(19\)より、
\begin{align} &S_4 = 19 + 3 \times 7 + 3 \times 1 = 43\\[0.7em] &S_5 = 43 + 3 \times 19 + 3 \times 7 = 121 \end{align}
となるので、(1)の答えは121です。
(1)と同じように次数下げを使ってみると、 \((xy)^7= {} \)\((x^6+3x^5+3x^4)(y^6+3y^5+3y^4)\) となりますが、これを漸化式の形にするには展開する必要があります。 この時点で3項同士の掛け算をする必要があり、計算量が膨大になってしまうと予想できます。 というわけで別の方法を考えましょう。
カギとなるのは「条件式が足りない対称式の値・次数下げ」 で登場した「条件式\(abc=n\)の使い方」です。 この考え方を使って、\(xyz=3\)から、\(xy=\frac{3}{z}\)と変形するのが今回の問題の第1歩です。
この変形によって
\begin{align} &(xy)^7+(yz)^7+(zx)^7\\[0.7em]=&\left(\frac{3}{z}\right)^7+\left(\frac{3}{x}\right)^7+\left(\frac{3}{y}\right)^7\\[0.7em]=&3^7\left(\frac{1}{x^7}+\frac{1}{y^7}+\frac{1}{z^7}\right) \end{align}
と計算することができます。
ここで(1)が使える形になりました。というのは、 \(\frac{1}{x^7}= {} \)\(x^{-7}\) なので\(S_{-7}\)に対応しています。意外と見落としがちな点だったかもしれません。
ここで、\(S_n=x^n+y^n+z^n\)について、今までは\(n\)を自然数として考えていました。 しかし、\(x^3= {} \)\(x^2+3x+3\) の両辺に\(x^n\)をかけて一般化するときに\(n\)を整数としても問題ないことを確認すれば、 \(S_n\)についての考察は0以下の整数でも同様に利用できることがわかります。
このように以前の考察を再利用するときは、利用できる条件を満たしているか確かめる癖を付けましょう。 \(S_n\)についての考察が整数全体で成り立つことがわかったので、漸化式が利用できます。 ただし(1)と違い、負の方向へ進んでいきたいので、\(S_{n+3}= {} \)\(S_{n+2}+3S_{n+1}+3S_n\)を \(S_n= {} \)\(-S_{n+1}-\frac{1}{3}S_{n+2}+\frac{1}{3}S_{n+3}\)と書き換えます。
あとは、計算問題です。\(S_0= {} \)\(x^0+y^0+z^0= {} \)\(1+1+1= {} \)\(3\)を利用すると、少し速く答えを出せます。
\(S_0= {} \)\(3,\) \(S_1= {} \)\(1,\) \(S_2= {} \)\(7\)より、
\begin{align} &S_{-1} = - 3 - \frac{1}{3} \times 1 + \frac{1}{3} \times 7 = -1\\[0.7em] &S_{-2} = - (-1) - \frac{1}{3} \times 3 + \frac{1}{3} \times 1 = \frac{1}{3}\\[0.7em] &S_{-3} = - \frac{1}{3} - \frac{1}{3} \times (-1) + \frac{1}{3} \times 3 = 1\\[0.7em] &S_{-4} = - 1 - \frac{1}{3} \times \frac{1}{3} + \frac{1}{3} \times (-1) = -\frac{13}{9}\\[0.7em] &S_{-5} = - \left(-\frac{13}{9}\right) - \frac{1}{3} \times 1 + \frac{1}{3} \times \frac{1}{3} = \frac{11}{9}\\[0.7em] &S_{-6} = - \frac{11}{9} - \frac{1}{3} \times \left(-\frac{13}{9}\right) + \frac{1}{3} \times 1 = -\frac{11}{27}\\[0.7em] &S_{-7} = - \left(-\frac{11}{27}\right) - \frac{1}{3} \times \frac{11}{9} + \frac{1}{3} \times \left(-\frac{13}{9}\right) = -\frac{13}{27} \end{align}
ここで注意です。計算量が多くなる問題では、計算し終わったら答案を振り返って、自分が求めたものが何の値なのか確認しましょう。 今回の場合、\(S_{-7}\)は\(\frac{1}{x^7}+\frac{1}{y^7}+\frac{1}{z^7}\) の値で、回答しなければならないのは、\((xy)^7+(yz)^7+(zx)^7 (= {} \)\(3^7 \left(\frac{1}{x^7}+\frac{1}{y^7}+\frac{1}{z^7} \right))\) の値です。最後の最後でミスが起きないように注意しましょう。
というわけで、答えは\(3^7 \times \left(-\frac{13}{27}\right)= {} \)\(-1053\)です。
\(S_{-4}=\frac{1}{x^4}+\frac{1}{y^4}+\frac{1}{z^4}\)より、\(S_{-4}\)が負の数であることに疑問を持った人は鋭いです。 実は\(x,y,z\)が解になる3次方程式、\(t^3-t^2-3t-3=0\)をコンピューターに解いてもらうと分かるのですが、\(x,y,z\)の組には複素数が含まれます。 なので、偶数乗の和にもかかわらず、負の数になっています。
\(xy,yz,zx\)についての対称式と見てあげると(1)と全く同じ形です。 つまり、①基本対称式の値と②連続する3つの\((xy)^n+(yz)^n+(zx)^n\)の値さえわかれば同様の方針で解くことができます。
基本対称式の値を求めると、
\begin{align} &xy+yz+zx=-3\\[0.7em] &xy \times yz+yz \times zx+zx \times xy=xyz(x+y+z)=3\\[0.7em] &xy \times yz \times zx=(xyz)^2=9 \end{align}
となります。解と係数の関係より\(xy,yz,zx\)は3次方程式\(t^3+3t^2+3t-9=0\)の解です。 よって、\(T_n= {} \)\((xy)^n+(yz)^n+(zx)^n\) とおくと、 \[T_{n+3}=-3T_{n+2}-3T_{n+1}+9T_n\] となります。
次に漸化式のスタートになる値を求めます。今回は4項間漸化式なので、\(T_1,\) \(T_2,\) \(T_3\)の値を求めなければいけません。 (\(T_0=3\)より、\(T_0,\) \(T_1,\) \(T_2\)を求める手もあります。漸化式の計算が一回増えるので計算量は同じくらいです。)
(1)では\(S_1,S_2,S_3\)の値から\(x,y,z\)についての基本対称式の値を求めました。 それに対して、今やろうとしているのは\(xy,yz,zx\)についての基本対称式の値から\(T_1,\) \(T_2,\) \(T_3\)の値を求めることです。 逆の作業をしているので、(1)で使った公式が同じように使えます。
\begin{align} &(xy+yz+zx)^2=(xy)^2+(yz)^2+(zx)^2+2xyz(x+y+z)\text{より、}\\[0.7em] &(-3)^2=T_2+2 \times 3 \times 1\\[0.7em] &T_2=3 \end{align}
\begin{align} &(xy)^3+(yz)^3+(zx)^3-3(xyz)^2=(xy+yz+zx)\{(xy)^2+(yz)^2+(zx)^2-xyz(x+y+z)\}より、\\[0.7em] &T_3-3 \times 9=-3 \times (3-3)\\[0.7em] &T_3=27 \end{align}
以上より、\(T_1,\) \(T_2,\) \(T_3\)の値もわかったので、あとは本当に計算だけです。(再掲|\(T_{n+3}= {} \)\(-3T_{n+2}-3T_{n+1}+9T_n\))
\(T_1= {} \)\(-3,\) \(T_2= {} \)\(3,\) \(T_3= {} \)\(27\)より、
\begin{align} &T_4 = -3 \times 27 - 3 \times 3 + 9 \times (-3) = -117\\[0.7em] &T_5 = -3 \times (-117) - 3 \times 27 + 9 \times 3 = 297\\[0.7em] &T_6 = -3 \times 297 - 3 \times (-117) + 9 \times 27 = -297\\[0.7em] &T_7 = -3 \times (-297) - 3 \times 297 + 9 \times (-117) = -1053 \end{align}
となり、答えの\(-1053\)が出てきます。
2文字のときと同様に年号問題ですね。この問題のポイントは次の通りです。
下\(n\)桁の数字は\(\bmod10^n\)(=10で割った余り)を考える
よくよく考えてみると当たり前ですが、知らないと方針を立てるのに苦労します。例えば今回の場合は下1桁の数字が求められているので10で割った余りを考えればいいことになります。 ここまで進めると2文字のときの例題を真似することができそうです。
以下、10を法とします(=10で割った余りを考えます)。 \(S_n= {} \)\(x^n+y^n+z^n\)とおくと、 \[S_{n+3}=S_{n+2}+3S_{n+1}+3S_n\] となることを利用します。
\(S_1 \equiv 1,\) \(S_2 \equiv 7,\) \(S_3 \equiv 9\)より、
\begin{alignat}{2} &S_4 \equiv 9 + 3 \times 7 + 3 \times 1 &\equiv 33 \equiv 3\\[0.7em] &S_5 \equiv 3 + 3 \times 9 + 3 \times 7 &\equiv 51 \equiv 1\\[0.7em] &S_6 \equiv 1 + 3 \times 3 + 3 \times 9 &\equiv 37 \equiv 7\\[0.7em] &S_7 \equiv 7 + 3 \times 1 + 3 \times 3 &\equiv 19 \equiv 9 \end{alignat}
\(S_n\)は直前の3つの値により決まります。なので、\(S_1=\)\(S_5\)かつ\(S_2=\)\(S_6\)かつ\(S_3=\)\(S_7\)が分かった時点で以降も1, 7, 9, 3がループすることが分かります。
ループの数から4で割った余りを考えればよいです。つまり下の表のようになります。
\(n\)を4で割った余り | \(S_n\)を10で割った余り |
---|---|
1 | 1 |
2 | 7 |
3 | 9 |
0 | 3 |
\(2024 \div 4= {} \)\(506\)(余り0)なので、 求める数字は3となります。
- \(121\)
- \(-1053\)
- \(3\)
同じようにして4文字以上の場合も求めることができます。 ただ、計算量を考えると受験数学で出題されるのは3文字以下の場合でしょう。
5. まとめ
目次今回の内容をまとめると、
- 対称式は基本対称式を軸にして考える。
- 次数の大きな対称式は漸化式の利用も考える。2つを繋げるのが解と係数の関係。
- 余りの問題は周期性を利用して解くことがあり、漸化式とも相性がいい。
- 以前の考察を再利用するときは、利用できる条件を満たしているか確かめる癖を付ける。
- 計算量が多い問題は計算し終わったら答案を振り返って、自分が求めたものが何の値なのか確認する。
- 下\(n\)桁の数字は\(\bmod10^n\)を考える。