対称式まとめ(基本定理の証明と利用・解と係数の関係との関連)
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この記事では対称式に関連する内容を一挙に紹介します。対称式を扱う際に基本となる対称式の基本定理をはじめ、実際に2変数や3変数の対称式の値を求める練習、さらに対称式の考え方が応用できる問題を見ていきます。後半では解と係数の関係に注目して方程式と組み合わせることでより発展的な問題を解いてみます。
目次
1. 対称式の定義と基本定理
目次\[a^4+b^4+c^4-2a^2b^2-2b^2c^2-2c^2a^2\]
突然ですが、上の式を見て「3つの文字が順番に登場していて、何となくバランスがいい気がする」という感覚はあるでしょうか。 この感覚を数学的にきちんと定義したのが対称式です。 それでは定義を見てみましょう。
対称式とは、どの2つの文字を入れ替えても、もとの式と同じになる多項式のこと。
先程の式を使って解説します。この式には\(a,b,c\)の3つの文字が含まれています。この3つの中から2つを選んで入れ替えるという操作をします。(3組あります。) すると、全てもとの式と同じになります。
\begin{align}&a^4+b^4+c^4-2a^2b^2-2b^2c^2-2c^2a^2\\[0.7em]={}&b^4+a^4+c^4-2b^2a^2-2a^2c^2-2c^2b^2 \quad \text{(\(a\)と\(b\)を入れ替え)}\\[0.7em]={}&a^4+c^4+b^4-2a^2c^2-2c^2b^2-2b^2a^2 \quad \text{(\(b\)と\(c\)を入れ替え)}\\[0.7em]={}&c^4+b^4+a^4-2c^2b^2-2b^2a^2-2a^2c^2 \quad \text{(\(c\)と\(a\)を入れ替え)}\end{align}
このような性質をもつ多項式を対称式と呼ぶわけです。もちろん、2文字の場合や4文字以上の場合も同様です。
対称式の定義のように、数学や物理では「対称」を何らかの変換をしても変わらないことによって定義するので、 このアイデアを頭の片隅に入れておくといつか再登場するかもしれません。
さて、対称式を定義したものの、ただ「バランスがいい」だけでは実際に使い物にはならず、嬉しくありません。 もちろんそんなことはなく、バランスの良さを活かした綺麗な性質が成り立ちます。
対称式は、
基本対称式という言葉が出てきたので解説します。基本対称式とはその名の通りあらゆる対称式の素(もと)になるような対称式のことです。 正確に言うと、\(n\)文字の基本対称式とは\(n\)個の文字から\(r(1 \leqq r \leqq n)\)個を選んでかけ合わせ、(\({}_n \mathrm{C}_r\)個あります)それら全てを足し合わせたものです。 \(1 \leqq r \leqq n\)に対応して、\(n\)種類あります。
具体例で考えると、\(a,b\)についての基本対称式は\(a+b\)と\(ab\)の2種類です。 \(a,b,c\)についての基本対称式は\(a+b+c\)と\(ab+bc+ca\)と\(abc\)の3種類です。
この対称式の素たちを使えばどんな対称式でも一意に表すことができるという便利な定理です。 この定理を使って、対称式を基本対称式の多項式で表してから代入して式の値を求める問題が頻出です。 このあと実際に例題を見てみます。
ところで、定理を使う前にきちんと証明してから使いたいという人に向けて証明を載せておきます。 実際に問題を解く分には証明を知らなくても結果だけ知っていれば事足りますが、 証明は実際に対称式を基本対称式で表す方法(アルゴリズム)そのものになっているので、学んでおくとどんな対称式でも基本対称式に直すことができます。 (それを使う場面が来るかは別問題ですが……) 興味のある人はぜひ読んでみてください。
対称式を基本対称式の多項式で表す方法はいくつか考えられているのですが、今回はその一例を紹介します。
発想としてはいきなり多くの文字を含む多項式を考えると大変そうなので、2文字から3文字、3文字から4文字というように拡張できないか考えます。 つまり、数学的帰納法を使います。
文字の数を\(n\)とし、自然数\(n\)に関する数学的帰納法で証明します。説明しやすいように対称式を\(f(x_1,\dots,x_n)\)で表します。
[1] \(n=1\)のとき
何も式変形しなくても基本対称式の多項式の形になっているので成り立ちます。
[2] \(n=k\)のときに対称式は基本対称式の多項式の形で表せると仮定します。このとき、\(n=k+1\)でも表せることを示します。
ここからどうするかが問題ですが、仮定を利用するために\(x_{k+1}\)だけを隔離します。数学的帰納法でよく出てくる発想です。 今回は対称式を\(x_{k+1}\)について整理します。
すると、係数がそれぞれ\(x_1\)から\(x_k\)までについての対称式になります。(これは式全体が対称式であることから導けます。) この係数を\(x_{k+1}^m\)に対して\(g_m(x_1,\dots,x_k)\)とおくと、次のように表すことができます。
\begin{align}&f(x_1,\dots,x_{k+1})\\[0.7em]={}&g_0(x_1,\dots,x_k)+g_1(x_1,\dots,x_k)x_{k+1}+g_2(x_1,\dots,x_k)x_{k+1}^2+\cdots\\[0.7em]={}&\sum_{m} g_m(x_1,\dots,x_k)x_{k+1}^m\end{align}
(補足|シグマの添え字について具体的な範囲が書かれていないのは\(x_{k+1}\)が何乗まであるか不明だからです。計算するときは有る分だけ足し合わせます。)
このように式変形すると仮定が使えそうです。ただ、仮定をよく見ると\(x_1\)から\(x_k\)までについての基本対称式で表せると言っています。 しかし、今回求めたいのは\(x_1\)から\(x_{k+1}\)までについての基本対称式で表す方法です。 これを解決するために基本対称式の表し方を工夫します。
\(x_1\)から\(x_{k+1}\)までについての基本対称式を次数が低いものから順番に、\(s_1,\dots,s_{k+1}\)とします。(つまり、\(s_1=x_1+\dots+x_{k+1},\) \(s_{k+1}=x_1\dots x_{k+1}\)) 同様に\(x_1\)から\(x_k\)までについての基本対称式を\(t_1,\dots,t_k\)とします。
このとき、\(t_1,\dots,t_k\)(\(x_1\)から\(x_k\)までについての基本対称式)を\(s_1,\dots,s_k\)(\(x_1\)から\(x_{k+1}\)までについての基本対称式のラスト以外)と\(x_{k+1}\)を使って次のように表すことができます。
\begin{align}&t_1=s_1-x_{k+1}\\[0.7em]&t_2=s_2-t_1x_{k+1}=s_2-(s_1-x_{k+1})x_{k+1}=s_2-s_1x_{k+1}+x_{k+1}^2\\[0.7em]&\vdots \end{align}
この表し方を使えば上手くいきそうです。式で確認します。
\begin{align}&\sum_{m} g_m(x_1,\dots,x_k)x_{k+1}^m\\[0.7em]={}&\sum_{m} h_m(t_1,\dots,t_k)x_{k+1}^m \quad \text{(仮定から\(g_m\)は基本対称式\(t_1,\dots,t_k\)で表せるので)}\\[0.7em]={}&\sum_{m} p_m(s_1,\dots,s_k, x_{k+1})x_{k+1}^m \quad \text{(先程の式を代入)}\\[0.7em]={}&\sum_{m} q_m(s_1,\dots,s_k)x_{k+1}^m \quad \text{(分配法則を使って再び\(x_{k+1}\)について整理)}\end{align}
かなりゴールに近い形まで来ました。\(g,h,p,q\)とたくさんの文字が使われていますが、どれも括弧の中の文字の多項式で表せることを示しているので具体的な中身を気にする必要は無いです。 \(x_{k+1}^m\)が邪魔ですが、実は結論から言うとこの\(k+1\)番目の文字\(x_{k+1}\)は綺麗に打ち消すことができます。その方法を見ていきます。
ここで活躍するのが解と係数の関係です。後にも登場しますが、基本対称式は解と係数の関係と密接な関係、というよりもはや関係式に登場するので直接的な関係があります。 解と係数の関係から\(x_1,\dots,x_{k+1}\)は\(u\)についての方程式
\[u^{k+1}-s_1u^{k}+s_2u^{k-1}-\dots+(-1)^{k+1}s_{k+1}=0\]
の解になります。方程式の解と来れば、行うのは次数下げです。 これによって先程の式を\(x_{k+1}\)について\(k\)次以下にまで次数下げすることができます。
\begin{align}&\sum_{m} q_m(s_1,\dots,s_k)x_{k+1}^m\\[0.7em]={}&\sum_{m=0}^{k} r_m(s_1,\dots,s_{k+1})x_{k+1}^m\end{align}
\(m\)の範囲が確定したので明記しておきました。\(m=0\)から\(m=k\)までの和になっているのですが、 ここでなんと\(r_1\)から\(r_k\)に関してはすべて\(0\)になります。
理由を説明すると、この式は対称式なので\(x_{k+1}\)と他の文字を入れ替えても変わらず、 このとき基本対称式の多項式である\(r_m(s_1,\dots,s_{k+1})\)の部分はそのままで、\(x_{k+1}^m\)の部分だけ入れ替えた文字になります。 この条件より\(r_1\)から\(r_k\)までがすべて\(0\)になることが導けます。 詳しく気になる人は2つ下の「参考|補題「\(\sum_{m=0}^{k} r_mx_1^m=\cdots\)\({}=\sum_{m=0}^{k} r_mx_{k+1}^m\)ならば\(r_1=\cdots=r_k=0\)」」をご覧ください。
というわけで長い道のりでしたが、
\[f(x_1,\dots,x_{k+1})=r_0(s_1,\dots,s_{k+1})\]
となり、\(n=k+1\)のときにも対称式は基本対称式の多項式の形で表すことができました。
[1], [2]からすべての自然数\(n\)について対称式は基本対称式の多項式の形で表すことができることがいえました。
以上で証明は完了です。この方法を実際に使った例を見てみたい人は 次の「参考|証明の方法を実際に使ってみる」をご覧ください。
先程の証明に出てきた方法を実際に使って対称式を基本対称式の多項式の形で表してみましょう。3文字の対称式 \(f(x,y,z)=x^2y+xy^2+ {}\)\(y^2z+yz^2+ {}\)\(z^2x+zx^2+ {}\)\(x^2yz+xy^2z+xyz^2\)を考えます。
まず、\(z\)について整理すると、
\[f(x,y,z)=(x^2y+xy^2)+(x^2+y^2+x^2y+xy^2)z+(x+y+xy)z^2\]
となります。そして、\(x,y\)についての基本対称式\(t_1,t_2\)は\(x,y,z\)についての基本対称式\(s_1,s_2\)と\(z\)を使って次のように表すことができます。
\begin{align}&t_1=s_1-z\\[0.7em]&t_2=s_2-t_1z=s_2-(s_1-z)z=s_2-s_1z+z^2\end{align}
これを使って各係数を表すと、
\begin{align}&(x^2y+xy^2)+(x^2+y^2+x^2y+xy^2)z+(x+y+xy)z^2\\[0.7em]={}&t_1t_2+(t_1^2-2t_2+t_1t_2)z+(t_1+t_2)z^2\\[0.7em]={}&(s_1-z)(s_2-s_1z+z^2)+\{(s_1-z)^2-2(s_2-s_1z+z^2)+(s_1-z)(s_2-s_1z+z^2)\}z+\{(s_1-z)+(s_2-s_1z+z^2)\}z^2\\[0.7em]={}&(s_1-3)z^3-s_1(s_1-3)z^2+s_2(s_1-3)z+s_1s_2\end{align}
手計算だと3行目から4行目の計算が結構重いです。最後に次数下げをするために多項式の割り算をします。 \(z\)は解と係数の関係から\(u\)についての方程式\(u^3-s_1u^2+s_2u-s_3=0\)の解なので、先程の4行目の式を\(z^3-s_1z^2+s_2z-s_3\) で割った余りと等しくなります。この余りは2次以下になるはずですが、証明にあったように1次と2次の項の係数は\(0\)になるので、 結果として\(z\)について0次となり、求めたい基本対称式の多項式そのものが出てきます。
実際に計算すると、
\[(s_1-3)z^3-s_1(s_1-3)z^2+s_2(s_1-3)z+s_1s_2=(z^3-s_1z^2+s_2z-s_3)(s_1-3)+s_1s_2+s_3(s_1-3)\]
となり、余りの\(s_1s_2+s_3(s_1-3)\)つまり、
\[(x+y+z)(xy+yz+zx)+xyz(x+y+z)-3xyz\]
が答えとして出てきます。証明の流れは確認できたでしょうか。 (ちなみにこの問題、\(x^2y+xy^2+ {}\)\(y^2z+yz^2+ {}\)\(z^2x+zx^2\)が\((x+y+z)(xy+yz+zx)-3xyz\)で表せることを知っていれば速攻で解くことができます……というのは言ってはいけない)
証明の最後に出てきた\(r_1\)から\(r_k\)がすべて\(0\)になることをきちんと示します。 大学数学の線形代数の知識を使いますが、習っていなくても読めます。
まず、「\(x_{k+1}\)と他の文字を入れ替えても変わらず」が何を言っているのか、記号\(\sum\)を使わずに表すと、次の等式が成り立つという意味です。
\begin{align}&r_0+r_1x_1+\cdots\cdots+r_kx_1^k\\[0.7em]={}&r_0+r_1x_2+\cdots\cdots+r_kx_2^k\\[0.7em]={}&\cdots\cdots\\[0.7em]={}&r_0+r_1x_{k+1}+\cdots\cdots+r_kx_{k+1}^k\end{align}
そしてこれを\(r_1\)から\(r_k\)についての連立方程式と見ると、次のようになります。
\begin{cases} (x_1-x_2)r_1+\dots+(x_1^k-x_2^k)r_k=0 \\[0.5em] (x_2-x_3)r_1+\dots+(x_2^k-x_3^k)r_k=0 \\[0.5em] \cdots\cdots \\[0.5em] (x_k-x_{k+1})r_1+\dots+(x_k^k-x_{k+1}^k)r_k=0 \end{cases}
線形代数を知っている人向けに係数行列を示すと次のようになります。
\begin{pmatrix} x_1-x_2 & x_1^2-x_2^2 & \cdots & x_1^k-x_2^k \\[0.5em] x_2-x_3 & x_2^2-x_3^2 & \cdots & x_2^k-x_3^k \\[0.5em] \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\[0.5em] x_k-x_{k+1} & x_k^2-x_{k+1}^2 & \cdots & x_k^k-x_{k+1}^k \end{pmatrix}
このとき、\(r_1=\dots=r_k=0\)が解であることは代入すればわかります。 示したいのはこれ以外の解を持たないということです。
ここで、連立方程式の未知数の数と式の本数の関係がカギとなります。 経験則から未知数の数と式の本数が一致すれば連立方程式が解けることを知っている人は多いと思います。
この経験則が連立1次方程式では係数行列のランク(階数)と呼ばれる値を使ってきちんと数式で示されています。 今回の場合、未知数が\(k\)個に対して、式の(実質的な)本数(\(=\)ランク)も\(k\)なので、この連立方程式は\(r_1=\cdots\cdots=r_k=0\)の解しか持ちません。
以上から、「\(\sum_{m=0}^{k} r_mx_1^m=\cdots\)\({}=\sum_{m=0}^{k} r_mx_{k+1}^m\)ならば\(r_1=\cdots=r_k=0\)」が示されました。
一意性の方も証明しておきます。 「背理法の使いどきと複数の文字を含む条件」で紹介したように 「ただ1通りに表される」の証明は「2通りの表し方がある」と仮定して背理法を用いるのが定石です。
存在性の証明と同様に対称式を\(f(x_1,\dots,x_n)\)、 \(x_1\)から\(x_n\)までについての基本対称式を次数が低いものから順番に、\(s_1,\dots,s_n\)とします。 対称式が2通りの基本対称式の多項式の形で表すことができると仮定して、式で表すと以下のようになります。
\[\begin{cases} f(x_1,\dots,x_n)=g(s_1,\dots,s_n)\\[0.5em] f(x_1,\dots,x_n)=g^{\prime}(s_1,\dots,s_n) \end{cases}\]
示したいのは\(s_1,\dots,s_n\)がどのような値のときにも\(g(s_1,\dots,s_n)\)と\(g^{\prime}(s_1,\dots,s_n)\)が等しくなることです。 一見、上の2つの式から、
\begin{align}&g(s_1,\dots,s_n)\\[0.7em]={}&f(x_1,\dots,x_n)\\[0.7em]={}&g^{\prime}(s_1,\dots,s_n)\end{align}
が成り立ち当たり前のように見えますが、すぐにはこうだと言えません。なぜなら、上の2つの式は\(x_1,\dots,x_n\)がどんな値でも成り立ちますが、\(s_1,\dots,s_n\)がどんな値でも成り立つとは言っていないからです。 よく考えてみると、この2つは違います。
\(s_1,\dots,s_n\)がどんな値でも成り立つことを示すのに使うのが存在性の証明でも使った解と係数の関係です。 解と係数の関係からどんな\(s_1,\dots,s_n\)に対しても、方程式
\[X^{n}-s_1X^{n-1}+s_2X^{n-2}-\dots+(-1)^{n}s_{n}=0\]
の解が対応する\(x_1,\dots,x_n\)になります。よって、すべての\(s_1,\dots,s_n\)について、
\begin{align}&g(s_1,\dots,s_n)\\[0.7em]={}&f(x_1,\dots,x_n)\\[0.7em]={}&g^{\prime}(s_1,\dots,s_n)\end{align}
が成り立つので、\(g\)と\(g^{\prime}\)は同じものとなり、一意性を示すことができました。
2. 対称式の値\({} +\alpha\)
目次対称式の基本定理を例題を通して使ってみます。
「対称式を基本対称式で表す」と言いましたが、実際に2変数のときは以下の式変形をよく用います。
- \(x^2+y^2=(x+y)^2-2xy\)
- \(x^3 \pm y^3=(x \pm y)^3 \mp 3xy(x \pm y)\)
- \((x-y)^2=(x+y)^2-4xy\)
「対称式を利用した式の値の求め方」にも登場したので興味のある人はそちらも確認してください。対称式ではないものが混ざっていますが、\(x-y\)も合わせて考える場面が多いので覚えておきましょう。
まずは基本対称式の値を求めます。\(a+b\)の値はわかっているので、\(ab\)を求めましょう。1番の式変形を上手く利用すると、
\begin{align}&ab\\[0.7em]={}&\dfrac{1}{2}\{(a+b)^2-(a^2+b^2)\}\\[0.7em]={}&\dfrac{1}{2}(4^2-20)\\[0.7em]={}&-2\end{align}
となります。基本対称式\(a+b,\) \(ab\)の値がわかったので\(a^3+b^3\)をこれらの多項式で表せば値が求まります。
\begin{align}&a^3+b^3\\[0.7em]={}&(a+b)^3-3ab(a+b)\\[0.7em]={}&4^3-3\cdot(-2)\cdot4\\[0.7em]={}&88\end{align}
よって答えは\(88\)です。
\(a^2+b^2\)の値がわかっているので、因数分解公式を利用しても解けます。
\begin{align}&a^3+b^3\\[0.7em]={}&(a+b)(a^2-ab+b^2)\\[0.7em]={}&4\times\{20-(-2)\}\\[0.7em]={}&88\end{align}
まず、3番の式変形を使って$a-b$を求めます。
\begin{align}&(a-b)^2\\[0.7em]={}&(a+b)^2-4ab\\[0.7em]={}&4^2-4\times(-2)\\[0.7em]={}&24\end{align}
\(a \lt b\)より、\(a-b \lt 0\)なので、\(a-b=-\sqrt{24}=-2\sqrt{6}\)となります。 そしたら2番の式変形を使って答えを求めましょう。
\begin{align}&a^3-b^3\\[0.7em]={}&(a-b)^3+3ab(a-b)\\[0.7em]={}&(-2\sqrt{6})^3+3 \cdot (-2) \cdot (-2\sqrt{6})\\[0.7em]={}&-36\sqrt{6}\end{align}
よって答えは$-36\sqrt{6}$になります。
- \(a^3+b^3=88\)
- \(a^3-b^3=-36\sqrt{6}\)
3変数の場合も解いてみましょう。
- \(a^2+b^2+c^2=(a+b+c)^2-2(ab+bc+ca)\)
- \(a^3+b^3+c^3=(a+b+c)(a^2+b^2+c^2-ab-bc-ca)+3abc \)
- \(\dfrac{1}{a}+\dfrac{1}{b}+\dfrac{1}{c}=\dfrac{ab+bc+ca}{abc}\)
こちらが3変数バージョンです。5番は\(a^2+b^2+c^2\)が含まれているので必要であれば4番を代入しましょう。 6番は通分しただけですが、気づかないと意外と迷うので載せておきました。
4の式変形をそのまま使います。
\begin{align}&a^2+b^2+c^2\\[0.7em]={}&(a+b+c)^2-2(ab+bc+ca)\\[0.7em]={}&(2\sqrt{2}+1)^2-2(2\sqrt{2}+1)\\[0.7em]={}&7\end{align}
(1)で\(a^2+b^2+c^2\)の値を求めたので、5の式変形を使って値を求めましょう。
\begin{align}&a^3+b^3+c^3\\[0.7em]={}&(a+b+c)(a^2+b^2+c^2-ab-bc-ca)+3abc\\[0.7em]={}&(2\sqrt{2}+1)\{7-(2\sqrt{2}+1)\}+3\cdot1\\[0.7em]={}&(2\sqrt{2}+1)(6-2\sqrt{2})+3\\[0.7em]={}&10\sqrt{2}+1\end{align}
分数が登場しましたが、6の式変形を見ていればすぐ解けます。
\begin{align}&\dfrac{1}{ab}+\frac{1}{bc}+\frac{1}{ca}\\[0.7em]={}&\dfrac{a+b+c}{abc}\\[0.7em]={}&2\sqrt{2}+1\end{align}
- \(a^2+b^2+c^2=7\)
- \(a^3+b^3+c^3=10\sqrt{2}+1\)
- \(\dfrac{1}{ab}+\dfrac{1}{bc}+\dfrac{1}{ca}=2\sqrt{2}+1\)
純粋な対称式の値の問題はここまでですが、高校数学には同じ考え方ができる亜種がいくつかあります。次からはそれらを見ていきます。
それぞれの問題にペアとして捉えたい組み合わせが存在します。順番に見ていきましょう。
まず1つ目のペアは\(x\)と\(\dfrac{a}{x}\)(\(a\)は定数)です。これらをペアとして見る理由は積が簡単に表せるからです。
2変数の対称式と見るためにはもちろん式が対称的であることが前提ですが、基本対称式に相当する"和と積"がすぐわかることがカギとなります。 これが例題3の問題が全て同じ考え方で解ける理由です。
(1)では和は問題文より\(5\)であり、積は\(x\)の値によらず\(2\)です。この2つが基本対称式に対応します。 \(3x^2+\dfrac{12}{x^2}\)はそのままではわかりにくいですが\(3\)で括ると、\(3\left(x^2+\dfrac{4}{x^2}\right)\)となり2乗の和が見えてきます。解答は以下のようになります。
\begin{align}&3x^2+\dfrac{12}{x^2}\\[0.7em]={}&3\left(x^2+\dfrac{4}{x^2}\right)\\[0.7em]={}&3\left\{\left(x+\dfrac{2}{x}\right)^2-4\right\}\\[0.7em]={}&3(5^2-4)\\[0.7em]={}&63\end{align}
見た目は対称式ではありませんが、計算の考え方は全く同じです。
(2)も対称式のようにして解けるとわかればサクッと解けます。ここでも\(5^x\cdot5^{-x}=1\)が肝です。 \(x^3-y^3=(x-y)^3+3xy(x-y)\)を覚えていると最速で答えが出せます。
\begin{align}&125^x-125^{-x}\\[0.7em]={}&(5^x)^3-(5^{-x})^3\\[0.7em]={}&(5^x-5^{-x})^3+3 \cdot 5^x \cdot 5^{-x}(5^x-5^{-x})\\[0.7em]={}&4^3+3 \cdot 1 \cdot 4\\[0.7em]={}&76\end{align}
\(\sin2\theta\)を見て「ん?」となったかもしれませんが、2倍角の公式を使います。すると、\(\sin\)と\(\cos\)について今回も対称式と見ることができます。
この2つをペアにする理由は\(t=\sin\theta+\cos\theta\)とすると、\(\sin^2\theta+\cos^2\theta=1\)より、\(\sin\theta\cos\theta\)が\(t\)を使って表せるからです。 日本語に直すと「積が和を使って表せる」ということです。なのでとても相性が良く、ペアとして捉えます。
置き換えをしたときは新しく設定した文字のとりうる値の範囲をきちんと調べましょう。
\(t=\sin\theta+\cos\theta\cdots\cdots\text{①}\)とおくと、
\begin{align}&\sin\theta\cos\theta\\[0.7em]={}&\dfrac{1}{2}\{t^2-(\sin^2\theta+\cos^2\theta)\}\\[0.7em]={}&\dfrac{t^2-1}{2}\end{align}
となります。したがって、
\begin{align} y &= \sin2\theta-\sin\theta-\cos\theta \\[0.7em] &= 2\sin\theta\cos\theta-(\sin\theta+\cos\theta) \\[0.7em] &= 2 \cdot \dfrac{t^2-1}{2} - t \\[0.7em] &= t^2-t-1 \\[0.7em] &= \left(t-\dfrac{1}{2}\right)^2-\dfrac{5}{4} \end{align}
となります。ここで①より、\(t=\sqrt{2}\sin\left(\theta+\dfrac{\pi}{4}\right)\)なので \(\theta\)が\(0 \leqq \theta \leqq 2\pi\)の範囲を動くとき\(t\)のとりうる値の範囲は\(-\sqrt{2} \leqq t \leqq \sqrt{2}\)です。
よって、\(y\)のとりうる値の範囲は下図のグラフを参照して\(-\dfrac{5}{4} \leqq y \leqq 1+\sqrt{2}\)となります。
(グラフ載せる)
- \(63\)
- \(76\)
- \(-\dfrac{5}{4} \leqq y \leqq 1+\sqrt{2}\)
ペアとして捉える感覚は掴めたでしょうか。
3. 基本対称式と解と係数の関係
目次対称式の基本定理の証明でも登場したように基本対称式は解と係数の関係にも登場します。高校数学では2次方程式で考えることが多いですが、\(n\)次方程式に一般化しておきましょう。
\(n\)次方程式\(a_nx^n+{}\)\(a_{n-1}x^{n-1}+{}\)\(\cdots+{}\)\(a_1x+{}\)\(a_0=0\)の\(n\)個の解を\(\alpha_1,\alpha_2,\cdots,\alpha_n\)として、それらの基本対称式を次数が低いものから順番に\(s_1,\dots,s_n\)とします。 このとき、これらの解の基本対称式は係数を用いて次のように表せます。
\[\boldsymbol{\color{RedOrange}s_d=(-1)^d\dfrac{a_{n-d}}{a_n} \quad (d=1,2,\cdots,n)}\]
一般化しているので文字が多く、とっつきにくいですが、3次方程式の解と係数の関係を見たことがある人は理解しやすいと思います。実際に3次方程式\(ax^3+bx^2+cx+d=0\)の3つの解を\(\alpha,\beta,\gamma\)とすると
\[\begin{cases} \alpha+\beta+\gamma=-\dfrac{b}{a}\\[0.5em] \alpha\beta+\beta\gamma+\gamma\alpha=\dfrac{c}{a}\\[0.5em] \alpha\beta\gamma=-\dfrac{d}{a} \end{cases}\]
が成り立ちます。ちなみに基本対称式の値からそれぞれの文字の値を知りたいときは、2次方程式では\(x^2-(\text{和})x+(\text{積})=0\)を解くと紹介されますが、 こちらを一般化すると、\(x^n-s_1x^{n-1}+\cdots+(-1)^ns_n=0\)となります。マイナスからスタートすることを覚えておけば符号を間違えないでしょう。
一般化した解と係数の関係は因数定理を使って証明することができます。因数定理について詳しく知りたい方は「因数定理(準備中)」をご覧ください。
上で示した\(n\)次方程式は因数定理より次のように因数分解できます。
\begin{align}&a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots+a_1x+a_0\\[0.7em]={}&a_n(x-\alpha_1)(x-\alpha_2)\dotsm(x-\alpha_n)\end{align}
ここで\(x^{n-d}\)次の両辺の係数を比較すると左辺は\(a_{n-d}\)、右辺は\(a_n(-1)^ds_d\)になります。 (右辺の\(x^{n-d}\)次の項は右辺の$n$個のかっこから、$-\alpha_1,-\alpha_2,\cdots,-\alpha_n$のうち\(d\)個と残りの$n-d$個の\(x\)を選んでかけ合わせ、(\({}_n \mathrm{C}_r\)個あります) それらすべてを足し合わせたものに$a_n$をかけたものになります。選んでかけて足し合わせるという流れはまさに基本対称式で見たものですね。)
このことから、
\begin{align}a_{n-d}&=a_n(-1)^ds_d\\[0.7em]s_d&=(-1)^d\dfrac{a_{n-d}}{a_n}\end{align}
が成り立ちます。
解と係数の関係は2次方程式のときは解の和と積の形になるのに加えて、基本対称式は対称式の分野で習うので初学者にとってはこの2つが結びつきづらいのですが、 一般化すると解と係数の関係に基本対称式が登場することが明確にわかったと思います。
この視点を持っているとかなり応用が効きやすくなります。例えば方程式が出てきたので、対称式の値を求めるのに次数下げを利用するアイデアが生まれます。分量が多くなってしまうので詳しくは「対称式×漸化式」をご覧ください。 また、次のような問題もかなり見通しが良くなります。
対称式が登場する(1),(2)の誘導と3次方程式の(3)をどう結びつければよいでしょうか。
「少なくとも一方」から対偶証明法が浮かんだ人もいるかもしれませんが、そうすると「$\alpha^2+\alpha\beta+\beta^2$が偶数」という仮定が出てきて使いにくいのでそのまま証明します。
$\alpha$と$\beta$の偶奇の組み合わせ(4種類)のうち、仮定から$(\alpha, \beta) = (\text{偶}, \text{奇}), (\text{奇}, \text{偶}), (\text{奇}, \text{奇})$ の3種類のパターンについて\(\alpha^2+\alpha\beta+\beta^2\)は奇数であることを示せばいいです。
[1] $\alpha$と$\beta$の片方のみが奇数の場合
\(\alpha^2+\alpha\beta+\beta^2\)が$\alpha, \beta$についての対称式であることから$\alpha$を奇数・$\beta$を偶数としても一般性を失いません。 このとき、$\alpha^2$は奇数・$\alpha\beta$は偶数・$\beta^2$は偶数となるので、$\alpha^2+\alpha\beta+\beta^2$は奇数となります。
[2] $\alpha$と$\beta$の両方が奇数の場合
$\alpha^2$も$\alpha\beta$も$\beta^2$も奇数となるので、$\alpha^2+\alpha\beta+\beta^2$は奇数となります。
以上から、整数\(\alpha,\ \beta\)の少なくとも一方が奇数のとき, \(\alpha^2+\alpha\beta+\beta^2\)は奇数であることが示されました。
ちなみに上手く式変形すると、場合分けせずに答えることができます。[1]と[2]は$\beta$の偶奇が異なり、それによって$\alpha\beta$と$\beta^2$の偶奇が入れ替わりますが、この2つを足した結果は常に偶数になるのでここをまとめます。
\begin{align}&\alpha^2+\alpha\beta+\beta^2\\[0.7em]={}&\alpha^2+\beta(\alpha+\beta)\end{align}
$\beta$と$\alpha+\beta$のどちらか片方は必ず偶数になるので$\beta(\alpha+\beta)$は偶数になり、式全体が奇数であることが証明できます。
「存在しない」ことの証明は存在すると仮定して矛盾を示します。また、(1)と同じ式がいるので結果を利用することを考えます。
$\alpha^2+\alpha\beta+\beta^2=2n$(偶数)は(1)の結論の否定になっているので、対偶を利用してみましょう。 (1)で示した命題の対偶「\(\alpha^2+\alpha\beta+\beta^2\)が偶数$\implies$$\alpha, \beta$は偶数」も真であることから$\alpha, \beta$は偶数であるといえます。
新しい情報がわかったときはそれを式で表すことを考えましょう。任意の偶数$\alpha, \beta$はある整数$k, l$を用いて$\alpha=2k,$ $\beta=2l$と表されます。 早速この情報を代入してみると、
\begin{align}\alpha^2+\alpha\beta+\beta^2&=2n\\[0.7em](2k)^2+2k \cdot 2l+(2l)^2&=2n\\[0.7em]4(k^2+kl+l^2)&=2n\\[0.7em]2(k^2+kl+l^2)&=n\end{align}
となります。ここで右辺の$n$は奇数ですが、$k^2+kl+l^2$が整数なので左辺は偶数となり矛盾します。したがって、\(\alpha^2+\alpha\beta+\beta^2=2n\)をみたす整数\(\alpha,\ \beta\)は存在しません。
いよいよ(3)です。先程まで整数問題でしたが、ここで突然3次方程式が登場します。見たところ誘導になっていそうですがどう使えばよいのでしょうか。
ここで、$\alpha^2+\alpha\beta+\beta^2$が対称式であることに注目しましょう。対称式といえば基本対称式、基本対称式と方程式といえば……と考えていくと解と係数の関係の利用を思いつきます。実際に調べてみましょう。
3次方程式\(x^3-2018x+c=0\)の3つの解を$\alpha, \beta, \gamma$とすると、解と係数の関係から
\[\begin{cases} \alpha+\beta+\gamma=0 & \cdots\cdots\text{①}\\[0.5em] \alpha\beta+\beta\gamma+\gamma\alpha=-2018 & \cdots\cdots\text{②}\\[0.5em] \alpha\beta\gamma=-c & \cdots\cdots\text{③} \end{cases}\]
が成り立ちます。\(\alpha^2+\alpha\beta+\beta^2=2n\)に近づけたいのでもう一度式をよく観察すると、①を使って②から$\gamma$を消去できそうです。 また、\(2018=2 \times 1009\)より$2018$は(2)の$2n$($n$は奇数)という設定を満たしています。 そこで、①から$\gamma=-(\alpha+\beta)$として②に代入すると
\begin{align}\alpha\beta+\beta\{-(\alpha+\beta)\}+\{-(\alpha+\beta)\}\alpha&=-2018\\[0.7em]\alpha\beta-(\alpha+\beta)^2&=-2018\\[0.7em]-\alpha^2-\alpha\beta-\beta^2&=-2018\\[0.7em]\alpha^2+\alpha\beta+\beta^2&=2018\end{align}
となり、見事(2)の形になりました。よって、$\alpha,\beta$がともに整数は有り得ず、少なくとも1つは整数ではありません。 ここで、対称性から$\alpha$が整数ではないとしても一般性を失いません。
そして残った2つの解については、もし$\beta$が整数とすると$\gamma=-(\alpha+\beta)$より$\gamma$が整数ではなくなるので整数解はただ1つとなり、 $\beta$が整数ではないとするとその時点で整数解は1個以下となります。
以上から3次方程式\(x^3-2018x+c=0\)の解のうち整数であるものは1個以下であることが示せました。 一見、関係がわかりにくい誘導ですが、解と係数の関係に基本対称式が含まれていることを意識していればかなり簡単に気づけることが見て取れたと思います。
余談ですが、(1), (2)で整数を表すのに$a,b$ではなく、わざわざ$\alpha, \beta$を使ったのは(3)の解と係数の関係を意識したからではないかなと推察します。 タネがわかってから問題を見ると、こんなところにも伏線があったのかと気づいておもしろいです。
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対称性から$\alpha$が奇数としても一般性を失わない。
$$\alpha^2+\alpha\beta+\beta^2=\alpha^2+\beta(\alpha+\beta)$$
とすると、$\alpha^2$は奇数である。また、$\alpha$が奇数であることから$\beta$と$\alpha+\beta$の偶奇は一致しないのでどちらかは必ず偶数であり、 $\beta(\alpha+\beta)$は$\beta$の偶奇にかかわらず偶数になる。
したがって、$\alpha^2+\alpha\beta+\beta^2$は奇数である。
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背理法で示す
\(\alpha^2+\alpha\beta+\beta^2=2n\)をみたす整数\(\alpha,\ \beta\)が存在すると仮定する。
(1)で示した命題の対偶も真なので、仮定から$\alpha,\beta$はともに偶数である。よって、ある整数$k,l$を用いてそれぞれ$\alpha=2k,$ $\beta=2l$と表すと、
\begin{align}\alpha^2+\alpha\beta+\beta^2&=2n\\[0.7em](2k)^2+2k \cdot 2l+(2l)^2&=2n\\[0.7em]4(k^2+kl+l^2)&=2n\\[0.7em]2(k^2+kl+l^2)&=n\end{align}
ここで右辺は奇数であるのに対し、左辺は$k^2+kl+l^2$が整数より偶数であるから、これは矛盾である。
したがって、仮定は誤りで、\(\alpha^2+\alpha\beta+\beta^2=2n\)をみたす整数\(\alpha,\ \beta\)は存在しない
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3次方程式\(x^3-2018x+c=0\)の3つの解を$\alpha, \beta, \gamma$とすると、解と係数の関係から
\[\begin{cases} \alpha+\beta+\gamma=0 & \cdots\cdots\text{①}\\[0.5em] \alpha\beta+\beta\gamma+\gamma\alpha=-2018 & \cdots\cdots\text{②}\\[0.5em] \alpha\beta\gamma=-c & \cdots\cdots\text{③} \end{cases}\]
①より$\gamma=-(\alpha+\beta)$であり、これを②に代入すると、
\begin{align}\alpha\beta+\beta\{-(\alpha+\beta)\}+\{-(\alpha+\beta)\}\alpha&=-2018\\[0.7em]\alpha\beta-(\alpha+\beta)^2&=-2018\\[0.7em]-\alpha^2-\alpha\beta-\beta^2&=-2018\\[0.7em]\alpha^2+\alpha\beta+\beta^2&=2018\end{align}
ここで$2018=2 \times 1009$なので、(2)より$\alpha,\beta$の少なくとも1つは整数ではない。対称性から$\alpha$が整数ではないとしても一般性を失わない。
このとき、$\beta$が整数であると仮定すると$\gamma=-(\alpha+\beta)$より$\gamma$は整数ではないので方程式の整数解は1個になる。 また、$\beta$が整数でないと仮定すると$\alpha$が整数でないことから整数解は1個以下になる。 よって、いずれの場合も整数解は1個以下になる。
以上から、3次方程式\(x^3-2018x+c=0\)の解のうち整数であるものは1個以下である。
さらに基本対称式と解と係数の関係の繋がりは軌跡・領域分野で「対称式が登場する存在条件」を処理するときにも役立ちます。次の項目が重要です。
\(x\)と\(y\)についての対称式になっている条件式を\(P(x+y, xy)\)とすると、
\begin{align}&P(x+y, xy) \quad \text{を満たす実数\(x,y\)が存在する}\\[0.7em]\iff&\begin{cases} P(s, t)\\[0.5em] \boldsymbol{\color{RedOrange}s^2-4t \geqq 0} \end{cases} \quad \textbf{を満たす実数\(s,t\)が存在する}\end{align}
これだけではわかりにくいので実際に例題を見てみましょう。
2変数関数のとりうる値でさらに\(x,y\)の動き方に制限があり、簡単に一文字消去もできない形なので難しいです。しかし、対称性を利用すればそこまで複雑にならずに解くことができます。
まず、式で表すために$k=2xy-x-y$のように関数の出力値を文字でおきます。このようにして、「$2xy-x-y$のとりうる値の範囲を求めること」を「$k$についての条件を求めること」だと捉えます。 $k$にどんな条件があるかというと、それは$k$の値に応じて適切な$x,y$がとれるという条件、つまり、$x,y$の存在条件です。式で表すと次のようになります。
$$\begin{cases} x^2+y^2=1\\[0.5em] k=2xy-x-y \end{cases} \quad \text{を満たす実数\(x,y\)が存在する}$$
ここで「対称式ばかりだから基本対称式の多項式で表したい!」と思った人は今回の記事内容の感覚がかなり掴めています。 基本対称式で表すために「対称式を含む存在条件の文字の置き換え」を使いましょう。
先程の置き換えが何をしていたか説明します。ここでは$s=x+y,$ $t=xy$として$x,y$の存在条件を$s,t$の存在条件に変えています。 このときに実数$x,y$が存在するという条件から$s^2-4t \geqq 0$という条件が追加で必要になります。
ポイントは「$x,y$が実数であること」です。この条件を満たすには$s,t$を好き勝手に動かしてはいけません。 足して$s$、かけて$t$になる実数$x,y$がきちんと存在していないといけないのです。
「足して$s$、かけて$t$になる」と聞いて解と係数の関係が登場します。このような2数は2次方程式$X^2-sX+t=0$の解です。 これらが実数であればいいので結果的に2次方程式が実数解を持つ条件を考えればよく、$s^2-4t \geqq 0$が出てきます。
実際に使ってみると次のようになります。
\begin{align}&\begin{cases}x^2+y^2=1\\[0.5em] k=2xy-x-y\end{cases} \quad \text{を満たす実数\(x,y\)が存在する}\\[0.7em]\iff&\begin{cases}(x+y)^2-2xy=1\\[0.5em] k=2xy-(x+y)\end{cases} \quad \text{を満たす実数\(x,y\)が存在する}\\[0.7em]\iff&\begin{cases}s^2-2t=1\\[0.5em] k=2t-s\\[0.5em] s^2-4t \geqq 0\end{cases} \quad \text{を満たす実数\(s,t\)が存在する}\end{align}
無事、$x,y$の存在条件を$s,t$の存在条件に変えることができました。ここからどうするのか軌跡・領域分野を学んでいないと手が止まりますが、 今回は説明を加えていくので未学習でも大丈夫です。
とりあえず$s,t$と2つも変数があるのでこれを減らしたいです。そこで$s^2-2t=1$が$t$について1次であることに注目して次のようにします。
\begin{align}&\begin{cases}s^2-2t=1\\[0.5em] k=2t-s\\[0.5em] s^2-4t \geqq 0\end{cases} \quad \text{を満たす実数\(s,t\)が存在する}\\[0.7em]\iff&\begin{cases}t=\dfrac{s^2-1}{2} & \cdots\cdots\text{①}\\[0.5em] k=2t-s & \cdots\cdots\text{②}\\[0.5em] s^2-4t \geqq 0 & \cdots\cdots\text{③}\end{cases} \quad \text{を満たす実数\(s,t\)が存在する}\end{align}
すると、①, ②, ③を満たす実数$t$が存在することは次のように言い換えられます。 ①より$t$は$\dfrac{s^2-1}{2}$と確定しているので、この$t$を②, ③に代入したものが成り立てば①, ②, ③を満たす実数$t$が存在するといえます。
\begin{align}&\begin{cases}t=\dfrac{s^2-1}{2} & \cdots\cdots\text{①}\\[0.5em] k=2t-s & \cdots\cdots\text{②}\\[0.5em] s^2-4t \geqq 0 & \cdots\cdots\text{③}\end{cases} \quad \text{を満たす実数\(s,t\)が存在する}\\[0.7em]\iff&\left(\begin{cases}t=\dfrac{s^2-1}{2}\\[0.5em] k=2t-s\\[0.5em] s^2-4t \geqq 0\end{cases} \quad \text{を満たす実数\(t\)が存在する}\right) \quad \text{を満たす実数\(s\)が存在する}\\[0.7em]\iff&\begin{cases}k=2 \cdot \dfrac{s^2-1}{2}-s & \cdots\cdots\text{④}\\[0.5em] s^2-4 \cdot \dfrac{s^2-1}{2} \geqq 0 & \cdots\cdots\text{⑤}\end{cases} \quad \text{を満たす実数\(s\)が存在する}\end{align}
⑤は$s$について具体的に解くことができます。④についても整理しましょう。
\begin{align}&\begin{cases}k=2 \cdot \dfrac{s^2-1}{2}-s & \cdots\cdots\text{④}\\[0.5em] s^2-4 \cdot \dfrac{s^2-1}{2} \geqq 0 & \cdots\cdots\text{⑤}\end{cases} \quad \text{を満たす実数\(s\)が存在する}\\[0.7em]\iff&\begin{cases}k=s^2-s-1\\[0.5em] -s^2+2 \geqq 0\end{cases} \quad \text{を満たす実数\(s\)が存在する}\\[0.7em]\iff&\begin{cases}k=s^2-s-1 & \cdots\cdots\text{⑥}\\[0.5em] -\sqrt{2} \leqq s \leqq \sqrt{2} & \cdots\cdots\text{⑦}\end{cases} \quad \text{を満たす実数\(s\)が存在する}\end{align}
実数$t$が存在することを言い換えたときと同じように考えると、 ⑥より$s$は\(-\sqrt{2} \leqq s \leqq \sqrt{2}\)と確定しているので、$s$がこれらの範囲を動くとき$s^2-s-1$のとりうる値の範囲を求めればよくなります。 これは2次関数の問題ですね。
\begin{align} k &= s^2-s-1 \\[0.7em] &= \left(s-\dfrac{1}{2}\right)^2-\dfrac{5}{4} \end{align}
と平方完成して、$s$が\(-\sqrt{2} \leqq s \leqq \sqrt{2}\)の範囲を動くことから答えは$-\dfrac{4}{5} \leqq k(=2xy-x-y) \leqq 1+\sqrt{2}$と導くことができます。
ところでこの数字、どこかで見ませんでしたか?実はこの問題は見た目は違いますが本質的に例題3の(3)と同じ問題です。 今回出てきた対称式は$x^2+y^2=1$とよく見ると原点中心の半径1の円を表しています。実はこのことから三角関数に置き換える方法も存在します。 参考として掲載しているので興味のある人はご覧ください。
この別解は以下の同値変形がポイントです。
\begin{align}&\begin{cases}x^2+y^2=1\\[0.5em] P(x, y)\end{cases} \quad \text{を満たす実数\(x,y\)が存在する}\\[0.7em]\iff&P(\cos\theta, \sin\theta) \quad \text{を満たす実数\(\theta\)が存在する}\end{align}
これを使うと次のような解答になります。
\begin{align}&\begin{cases}x^2+y^2=1\\[0.5em] k=2xy-x-y\end{cases} \quad \text{を満たす実数\(x,y\)が存在する}\\[0.7em]\iff&k=2\sin\theta\cos\theta-\cos\theta-\sin\theta \quad \text{を満たす実数\(\theta\)が存在する}\end{align}
つまり、$2\sin\theta\cos\theta-\cos\theta-\sin\theta$のとりうる値の範囲を調べることになり例題3の(3)に一致します。 こちらの問題では$\theta$の変域が$0 \leqq \theta \leqq 2\pi$ではなく全実数となりますが$0$から$2\pi$の時点で一周しているので結果に影響はありません。 ここからの流れは例題3の(3)と全く同じです。
$t=\sin\theta+\cos\theta\cdots\cdots\text{①}$とおくと、$\sin\theta\cos\theta=\dfrac{t^2-1}{2}$となるので、
\begin{align} k &= 2\sin\theta\cos\theta-\cos\theta-\sin\theta \\[0.7em] &= 2 \cdot \dfrac{t^2-1}{2} - t \\[0.7em] &= t^2-t-1 \\[0.7em] &= \left(t-\dfrac{1}{2}\right)^2-\dfrac{5}{4} \end{align}
ここで①より、\(t=\sqrt{2}\sin\left(\theta+\dfrac{\pi}{4}\right)\)なので\(\theta\)が全実数を動くとき\(t\)のとりうる値の範囲は\(-\sqrt{2} \leqq t \leqq \sqrt{2}\)です。 よって、\(k\)のとりうる値の範囲は\(-\dfrac{5}{4} \leqq k \leqq 1+\sqrt{2}\)となります。
2つの解法を見比べると、($t$が被っていてわかりにくいですが)
- $t=\dfrac{s^2-1}{2}$に対して$\sin\theta\cos\theta=\dfrac{t^2-1}{2}$
- $-s^2+2 \geqq 0$から$-\sqrt{2} \leqq s \leqq \sqrt{2}$に対して$t=\sqrt{2}\sin\left(\theta+\dfrac{\pi}{4}\right)$から$-\sqrt{2} \leqq t \leqq \sqrt{2}$
と、対応関係が見られます。
- \(-\dfrac{5}{4} \leqq 2xy-x-y \leqq 1+\sqrt{2}\)
4. まとめ
目次今回の内容をまとめると、
- 対称式は基本対称式の多項式の形で一意に表せる。
- 2変数や3変数の対称式は頻出なので式変形を覚えておくと便利。2変数のときは$x-y$も合わせて考える場面が多い。
- 和と積が簡単に表せると2変数の対称式の考え方が応用できるかも。具体例は$x$と$\dfrac{a}{x},$ $a^x$と$a^{-x},$ $\sin\theta$と$\cos\theta$
- 解と係数の関係には基本対称式が登場し、対称式と方程式を繋いでいる。
- 対称性のある実数$x,y$の存在条件を$s=x+y$と$t=xy$の存在条件に変換するときは$s^2-4t \geqq 0$を忘れずに。