条件式が足りない対称式の値・次数下げ

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前回に引き続き式の値問題を解説します。今回は対称式を活用するもののうち条件式が足りない問題と、次数下げを使う問題について学びます。

目次

1. この記事を読むのに必要な知識

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この記事で出てくる用語の解説とそれを詳しく扱っている記事へのリンク集です。

対称式・基本対称式

対称式とはどの2つの文字を交換しても、元の式と同じになる多項式のこと。例えば\(x^2+y^2\)は文字を交換すると\(y^2+x^2\)となり、元の式と同じものになるので対称式である。 また対称式のうち基本になるものを基本対称式と呼び、具体的には2文字の場合\(x+y,\) \(xy\)の2つ、3文字の場合\(x+y+z,\) \(xy+yz+zx, \) \(xyz\)の3つを基本対称式と呼ぶ(4文字以上の場合も同様)。

有理化

ルートを含む式から含まない式に変形することを有理化といい、分数の分母からルートを消去する場面でよく使われる。 和と差の積の公式を利用して有理化することが多い。

2. 条件式が足りない対称式の値

目次

前回の記事「対称式を利用した式の値の求め方」では基本対称式を軸にして考えることを学びました。 今回の記事では与えられた条件式の数が足りない場合について解説します。キーワードは「上手く計算できるように仕組まれている」です。

このパターンは3文字のときに出題されることがほとんどなので、3文字の場合で説明します。基本対称式は\(a+b+c,\) \(ab+bc+ca,\) \(abc\)の3つです。 なので、基本対称式を求めるためには条件式は3つほしいところです。しかし、条件式が2個以下のときもあります。

このような場合はわからない基本対称式を文字でおいて進め、計算していくとその文字が打ち消されて答えが出ると予想しましょう。 例題を見ながら確認していきます。

例題1 条件式が足りない対称式の値
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  1. \(a+b+c=5,\) \(\dfrac{1}{a}+\dfrac{1}{b}+\dfrac{1}{c}=\dfrac{1}{5}\)のとき、\(a^3+b^3+c^3\) の値を求めてください。
  2. \(a+b+c=0\)のとき、\(a\left(\dfrac{1}{b}+\dfrac{1}{c}\right)+b\left(\dfrac{1}{c}+\dfrac{1}{a}\right)+c\left(\dfrac{1}{a}+\dfrac{1}{b}\right)\) の値を求めてください。

※各解説・解答からこの例題に戻れます

例題1の(1)の解説
例題1

逆数の和はまず通分ということで\(\dfrac{ab+bc+ca}{abc}=\dfrac{1}{5}\)と変形します。さてここで条件式の数が2つなのでここからどう頑張っても\(ab+bc+ca,\) \(abc\)のそれぞれの値は出ません。 しかし、求めたい式の値は出るように仕組まれています。というわけで文字置きしましょう。

\(ab+ca+ca=k\)とおくと、\(abc=5k\)となります。ここからは前回同様、基本対称式を使って解きます。

\begin{align} &a^3+b^3+c^3\\[0.7em] =&(a+b+c)(a^2+b^2+c^2-ab-bc-ca)+3abc\\[0.7em] =&(a+b+c)\{(a+b+c)^2-3(ab+bc+ca)\}+3abc\\[0.7em] =&5(5^2-3k)+3\cdot5k\\[0.7em] =&125 \end{align}

予想通り、\(k\)が打ち消されて答えが出ました。なお、この\(k\)の値は最後までわかりません。

補足|仕組みのネタバラシ

実際に作問しながら上手く計算できるように仕組むところをお見せしたいと思います。

\(a+b+c=m,\) \(\dfrac{1}{a}+\dfrac{1}{b}+\dfrac{1}{c}=n\)とおいて、\(m\)と\(n\)がどのような関係であれば\(a^3+b^3+c^3\)の値が求まるか考えてみます。

\begin{align} &a^3+b^3+c^3\\[0.7em] =&(a+b+c)\{(a+b+c)^2-3(ab+bc+ca)\}+3abc\\[0.7em] =&m(m^2-3k)+3\cdot\frac{k}{n}\\[0.7em] =&m^3+3\left(\frac{1}{n}-m\right)k \end{align}

ここで\(k\)の値はわからないので、\(k\)を含む項が残っていると値が求まりません。よって、\((kを含む項の係数)=0\)なので\(\dfrac{1}{n}-m=0\) つまり\(n=\dfrac{1}{m}\)です。 したがって、\(n\)が\(m\)の逆数になるように仕組んで作問すれば良いことがわかりました。

以上、仕組みのネタバラシでした。

例題1の(2)の解説
例題1

今回も通分したいところですが実際にしてみるとかなり形が複雑になります。そこで、対称式利用の隠れた切り札を紹介したいと思います。

条件式\(a+b+c=m,\) \(abc=n\)の使い方

\(a+b+c=m\)より \begin{align} \begin{cases} a+b=m-c\\[0.7em] b+c=m-a\\[0.7em] c+a=m-b \end{cases} \end{align}

\(abc=n\)より \begin{align} \begin{cases} ab=\dfrac{n}{c}\\[0.7em] bc=\dfrac{n}{a}\\[0.7em] ca=\dfrac{n}{b} \end{cases} \end{align} と変形できないか考える

この変形のポイントは値がよくわからない文字の数が2つから1つになっていることです。\(m,\ n\)は定数であることに注意してください。 例えば、\(a+b\)は\(a\)も\(b\)もわからないですが、\(m-c\)と変形することで\(c\)のみがわからない文字となり扱いやすくなります。

今回はこれを使ってみようと思います。分母が同じものを整理すると、この代入が使える形が見えてきます。

\begin{align} &a\left(\frac{1}{b}+\frac{1}{c}\right)+b\left(\frac{1}{c}+\frac{1}{a}\right)+c\left(\frac{1}{a}+\frac{1}{b}\right)\\[0.7em] =&\frac{b+c}{a}+\frac{c+a}{b}+\frac{a+b}{c}\\[0.7em] =&\frac{-a}{a}+\frac{-b}{b}+\frac{-c}{c}\\[0.7em] =&-3 \end{align}

なんと、\(ab+bc+ca,\ abc\)が登場することもなく値が求まりました。 もちろんこれらの値は不明ですが、問題の式は上のようにきれいに約分できるように仕組まれているので、値が出ます。

別解|素直に\(c=-(a+b)\)を代入

\(c=-(a+b)\)と変形して代入する方法もあります。一文字消去という素直なこの考え方でももちろん答えが出ます。 計算するときは\(a,\ b\)が打ち消されるだろうと予想して進めます。

\begin{align} &a\left(\frac{1}{b}+\frac{1}{c}\right)+b\left(\frac{1}{c}+\frac{1}{a}\right)+c\left(\frac{1}{a}+\frac{1}{b}\right)\\[0.7em]=&\left(\frac{1}{a}+\frac{1}{b}\right)c+\frac{a+b}{c}+\frac{a}{b}+\frac{b}{a}\\[0.7em]=&-\left(\frac{1}{a}+\frac{1}{b}\right)(a+b)+\frac{a+b}{-(a+b)}+\frac{a}{b}+\frac{b}{a}\\[0.7em]=&-\left(1+\frac{b}{a}+\frac{a}{b}+1\right)-1+\frac{a}{b}+\frac{b}{a}\\[0.7em]=&-3 \end{align}

参考|もしも通分すると…

前回の例題のように通分するとどうなるでしょうか。計算してみると

\[(分子)=a^2c+a^2b+b^2a+b^2c+c^2b+c^2a\]

となって、これを基本対称式に直すのは大変です(例題2の(1)参考参照)。 直した結果は\((a+b+c)(ab+bc+ca)-3abc\)となり、ここで\(a+b+c=0\)を代入すると\(\dfrac{-3abc}{abc}=-3\)となります。

例題1の解答
例題1
  1. \(125\)
  2. \(-3\)

条件式が足りない問題でなくても、先程の切り札が使える例があります。次の例題を見てみましょう。

例題2 切り札を使う対称式の値
目次

\(a+b+c=3,\) \(ab+bc+ca=-1,\) \(abc=-2\)のとき、次の式の値を求めてください。

  1. \((a+b)(b+c)(c+a)\)
  2. \(ab(a+b)+bc(b+c)+ca(c+a)\)

※各解説・解答からこの例題に戻れます

例題2の(1)の解説
例題2

\((a+b)(b+c)(c+a)\)をそのまま基本対称式で表そうとすると大変です。というわけで切り札を使いましょう。 この初手さえ見抜ければあとは前回と同様です。

\begin{align} &(a+b)(b+c)(c+a)\\[0.7em] =&(3-c)(3-a)(3-b)\\[0.7em] =&27-9(a+b+c)+3(ab+bc+ca)-abc\\[0.7em] =&27-9\times3+3\times(-1)-(-2)\\[0.7em] =&-1 \end{align}

参考としてそのまま基本対称式で表そうとした例も載せておきます。

参考|\((a+b)(b+c)(c+a)\)を基本対称式で表す

基本方針は「展開すると元の式の項が出てくるものを考えて、そのあとに余分な部分を引く」です。 実際の答えは\((a+b+c)(ab+bc+ca)-abc\)なので\((a+b+c)(ab+bc+ca)\)を考えた場合一瞬ですが、そう上手く思いつくとは限りません。 というわけで今回は\((a+b+c)(a^2+b^2+c^2)\)から余分な部分を引くと考えた例を紹介します。

\begin{align} &(a+b)(b+c)(c+a)\\[0.7em]=&(a+b+c)(a^2+b^2+c^2)-(a^3+b^3+c^3)+2abc\\[0.7em]=&(a+b+c)\{(a+b+c)^2-2(ab+bc+ca)\}-[(a+b+c)\{(a+b+c)^2-3(ab+bc+ca)\}+3abc]+2abc\\[0.7em]=&(a+b+c)[(a+b+c)^2-2(ab+bc+ca)-\{(a+b+c)^2-3(ab+bc+ca)\}]-abc\\[0.7em]=&(a+b+c)(ab+bc+ca)-abc \end{align}

もちろんこの式に基本対称式の値を代入しても答えは出ますが、明らかに\(a+b=3-c\)を利用したほうが簡単ですね。 なお、例題1の(2)の参考は

\[(分子)=(a+b)(b+c)(c+a)-2abc\]

であり、この例と同様にして基本対称式に直すことができます。

例題2の(2)の解説
例題2

切り札2種を存分に使うことができます。解答は以下のようになります。

\begin{align} &ab(a+b)+bc(b+c)+ca(c+a)\\[0.7em] =&-\frac{2}{c}(3-c)-\frac{2}{a}(3-a)-\frac{2}{b}(3-b)\\[0.7em] =&6-6\left(\frac{1}{a}+\frac{1}{b}+\frac{1}{c}\right)\\[0.7em] =&6-6\cdot\frac{ab+bc+ca}{abc}\\[0.7em] =&3 \end{align}

ちなみに基本対称式で表すと、\((a+b+c)(ab+bc+ca)-3abc\)になります。

例題2の解答
例題2
  1. \(-1\)
  2. \(3\)

3. 次数下げ

目次

値を求める式の次数が高いときこの「次数下げ」という工夫をします。例題を用いて説明します。

例題3 次数下げの利用
目次
  1. \(x=\dfrac{\sqrt{3}+1}{\sqrt{3}-1}\)のとき、\(x^4-3x^3+7x^2-3x+8\)の値を求めてください。

※各解説・解答からこの例題に戻れます

例題3の(1)の解説
例題3

まずは\(x\)を有理化して簡単にします

\begin{align} x=&\frac{(\sqrt{3}+1)^2}{(\sqrt{3}-1)(\sqrt{3}+1)}\\[0.7em] =&\frac{4+2\sqrt{3}}{2}\\[0.7em] =&2+\sqrt{3} \end{align}

となりますが、この後そのまま代入すると\((2+\sqrt{3})^4\)を計算しなければならず、とても大変です。

そこで、\(x^2\)を\(x\)を使って表せないか考えてみます。 なぜこれが工夫になるのかピンと来ないかもしれませんが、後に詳しく説明します。

ポイントは2次方程式を作ることです。まず、\(x=2+\sqrt{3}\)から根号のみを右辺に残して両辺を2乗します。 こうすることで、2次方程式が完成します。ここから\(x^2\)を\(x\)を使って表せそうです。

\begin{align} &x=2+\sqrt{3}\\[0.7em] &x-2=\sqrt{3}\\[0.7em] &(x-2)^2=3\\[0.7em] &x^2-4x+1=0\\[0.7em] &x^2=4x-1 \end{align}

これをどのように利用するかというと、\(x=2+\sqrt{3}\)のとき、\(x^2=4x-1\)であることから\(x^2\)が現れるたびに\(4x-1\)に置き換えていき、 最終的に\(x\)の1次式になったところで\(x=2+\sqrt{3}\)を代入すれば計算量が削減できます

このテクニックを「次数下げ」と呼びます。実際に使ってみましょう。

\begin{align} &x^4-3x^3+7x^2-3x+8\\[0.7em] =&(x^2)^2-3x\cdot x^2+7x^2-3x+8\\[0.7em] =&(4x-1)^2-3x(4x-1)+7(4x-1)-3x+8\\[0.7em] =&16x^2-8x+1-12x^2+3x+28x-7-3x+8\\[0.7em] =&4x^2+20x+2\\[0.7em] =&4(4x-1)+20x+2\\[0.7em] =&36x-2\\[0.7em] =&36(2+\sqrt{3})-2\\[0.7em] =&70+36\sqrt{3} \end{align}

直接代入すると\((2+\sqrt{3})^4\)を計算する必要がありますが、次数下げによって代入後の計算がとても簡単になっています。 続いて高校数学でこの次数下げが実際に登場する例を見ていきます。

例題3の解答
例題3
  1. \(70+36\sqrt{3}\)

4. 次数下げの活用例

目次

ここからはおまけとして次数下げの活用例を紹介します。最頻出は3次関数の極値計算です。この問題は微分が登場しますが、今回はわからなくても大丈夫です。 3次関数の極値問題について詳しく知りたい人は「3次関数の極値問題(準備中)」をご覧ください。

例題4 3次関数の極値計算に出てくる次数下げ
目次
  1. \(-3x^2+12x-1=0\)を満たす\(x\)について\(-x^3+6x^2-x+1\)の値を求めてください。

※各解説・解答からこの例題に戻れます

例題4の(1)の解説
例題4

3次関数の極値計算では解き進めていくと上のような問題を解く状況が出てきます。

素直に考えると、\(-3x^2+12x-1=0\)より\(x=\dfrac{6±\sqrt{33}}{3}\)なので、この値を\(-x^3+6x^2-x+1\)に代入すれば答えが出てきます。 しかし、計算量が多くて大変です。そこで、今回の次数下げを活用してみましょう。

\(-3x^2+12x-1=0\) より, \(x^2=4x-\dfrac{1}{3}\)

\begin{align} &-x^3+6x^2-x+1\\[0.7em] =&-x\cdot x^2+6x^2-x+1\\[0.7em] =&-x\left(4x-\frac{1}{3}\right)+6\left(4x-\frac{1}{3}\right)-x+1\\[0.7em] =&-4x^2+\frac{1}{3}x+24x-2-x+1\\[0.7em] =&-4\left(4x-\frac{1}{3}\right)+\frac{1}{3}x+24x-2-x+1\\[0.7em] =&-16x+\frac{4}{3}+\frac{1}{3}x+24x-2-x+1\\[0.7em] =&\frac{22}{3} x+\frac{1}{3} \end{align}

したがって、\(x=\dfrac{6-\sqrt{33}}{3}\) のとき \(\dfrac{135-22\sqrt{33}}{9}\), \(x=\dfrac{6+\sqrt{33}}{3}\) のとき \(\dfrac{135+22\sqrt{33}}{9}\) となります。

例題4の解答
例題4
  1. \(x=\dfrac{6 \mp \sqrt{33}}{3}\) のとき \(\dfrac{135 \mp 22\sqrt{33}}{9}\) (複号同順)

3次関数の極値計算とありましたが、この計算は下のグラフで示した値を求めています。

3次関数のグラフ

5. まとめ

目次

今回の内容をまとめると、

  1. 対称式の値問題で条件式が足りないときはわからない基本対称式を文字でおいて、計算していくとその文字が打ち消されて答えが出ると予想して進める。
  2. \(a+b+c=m\)を見たら、\(a+b=m-c,\) \(b+c=m-a,\) \(c+a=m-b\)と変形できないか考えてみる。
  3. \(abc=n\)を見たら、\(ab=\dfrac{n}{c},\) \(bc=\dfrac{n}{a},\) \(ca=\dfrac{n}{b}\)と変形できないか考えてみる。
  4. \(x\)の値が根号を含むとき、\(x^3\)や\(x^4\)の値を求めるなら次数下げを視野に入れる。やり方は根号のみを右辺に残して両辺2乗。
  5. 次数下げは3次関数の極値計算でよく使う。

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